社内不倫する社員への対応

Q X社では、最近同じ課に所属する妻子ある男性従業員Aと女性従業員Bの不倫が噂されている。X社としては、風紀の乱れや夫婦関係・恋愛関係での諍いが会社に持ち込まれることによって会社の業務に支障が生じることを懸念している。会社として、どのような対応ができるか。

A 1 会社として社内の秩序を保っていくための対応として、問題社員に対する懲戒処分や配転命令等の手段が考えられます。社内不倫とはいえ、恋愛関係による交際自体は私生活上の行為であるため、原則としては懲戒処分をすることはできず、配転命令等で対応することをまず考えます。ただし、後述のように、例外的に懲戒処分をすることもできる場合があります。

 

2 配転命令については、労働契約上会社に労働力の有効活用、適正配置の裁量が認められているため、契約の範囲内で当然に行うことができます。もっとも、会社の配転命令権も濫用が禁止されており(労契法3条5項)、「他の不当な動機・目的で行われたとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである等、特段の事情の存する場合」には権利濫用となるとされています(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14・労判477-6)。

 

 社内不倫に対する原則的な対応は、配転命令や口頭による指導・注意等ですが、企業秩序への影響が大きい場合には懲戒処分を検討します。

 

3 不倫のような私生活上の行為であっても、最高裁の判例によると、「企業秩序に直接の関連を有するもの」、「会社の評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められる(もの)」については懲戒処分の対象とすることができるとされています(国鉄中国支社事件・最判昭49.2.28・労判196-24)。

 

 そして、そのような対象に該当するか否かについては、裁判例は①会社の業態・規模、②交際の態様、③当該社員の地位・職務内容等に照らして、企業秩序に直接関連するか又は企業の社会的評価を毀損させるものかを検討しています。

 

 妻子ある男性従業員と不倫した女性従業員を解雇とした事案では、①②③の事情に照らすと、職場の風紀・秩序を乱したとはいえないとして解雇を無効としました(繁機工設備事件・旭川地判平元.12.27・労判554-17)。

 

 これに対し、妻子ある男性車掌が女子車掌と情交関係を結び妊娠させた事案では、当該女子従業員が退職したこと、高卒の女子社員が大半の職場で女子従業員に不安動揺があり、採用活動にも悪影響があったことから、業務の正常な運営を阻害し、企業の社会的評価を傷つけたとして男性従業員への解雇を有効としました(長野電鉄事件・東京高判昭41.7.30・労民17.4.914)。

 

 また、妻子ある教師が生徒の母親と情交関係を結んだ事案では、学校の名誉を棄損すること、生徒らに対する教育上の悪影響が心配されることなどを根拠に、教師に対する懲戒解雇処分を有効としました(学校法人白頭学院事件・大阪地判平9.8.29・労判725-40)。

 

4 会社としての具体的な対応手順については、まず、事実関係の調査を適切に行うことが重要となります。このときに注意が必要なのは、配転命令を検討する場合には、調査対象は不倫そのものというよりも当該部署の管理者の適格性、管理の適切性になるということです。

 

 そして、調査の方法が不適切で、不倫が真実でないのに処分をした場合には、対象者の名誉を傷つけ、損害賠償の請求を受けるリスクもあるので、調査は慎重に行うべきです(参考:ケイエム観光事件・東京高判平7.2.28・労判678-69)。具体的には、利害関係人に調査に関与させないこと、複数の部署に調査させること、社内弁護士を関与させることなどが考えられます。

 

 調査の結果、社内不倫が明らかになれば、まずは口頭による指示・注意を行います。従わない場合には社員に書面で警告を行います。社員が従わない場合には、配転命令や懲戒の処分を検討していくことになります。

 

5 そこで、まずABの関係について調査を尽くすことが必要です。特にプライバシーや名誉にかかわる事項であるので、慎重な調査が必要です。

 

 事実が明らかになった場合には、口頭での注意や配転等で対応します。懲戒処分を検討する場合には、私生活上の行為に対する懲戒が例外的にしか許されていないことを踏まえ、「企業秩序に直接の関連を有するもの」、「会社の評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められる(もの)」であるかを検討します(国鉄中国支社事件・最判昭49.2.28・労判196-24)。そして、そのような対象に該当するか否かについては、裁判例を参考に①会社の業態・規模、②交際の態様、③当該社員の地位・職務内容等に照らして、企業秩序に直接関連するか又は企業の社会的評価を毀損させるものかを検討することとなります。