インターネット上で会社や同僚を誹謗中傷する社員への対応

Q 問題社員のAは業務上のミスで叱責されたことをきっかけに、会社や上司に対する誹謗中傷をインターネット上の掲示板や自身のブログに掲載するようになった。会社はこのような行為に対してどのような対応が可能か。

A 1 まず、社員が勤務時間内又は勤務場所で書きこみを行った場合には、就業規則に定める服務規律違反を根拠として、当該社員に対して懲戒処分を行うことができます。これに対して、書き込みが勤務時間外に、勤務場所以外で行われた場合は私生活上の行為となります。私生活上の行為に対する懲戒処分に関しては、「インターネットに開発中の商品に関する書き込みをする社員への対応」を参照してください。

インターネットによらない誹謗中傷の事案として学校法人敬愛会事件(最判平6.9.8・労判657-12)、関西電力事件(最判昭58.9.8・労判415-29)も参考になります。
また、情報の書き込みや投書などについては適切な内部通報として保護すべき場合もあるため注意が必要です。

2 懲戒処分を行うことが難しい場合でも、誹謗中傷の書き込みを行った社員に対しては刑事上、民事上の請求を行うことも考えられます。

刑事上の手段としては、刑事告訴があります(刑事訴訟法230条)。書きこみに事実の摘示がある場合には名誉棄損罪(刑法230条。事実が真実である必要はありません。)、事実の摘示を伴わないときは侮辱罪(刑法231条)が成立します。

民事上の手段としては、書き込みによる会社・同僚の名誉侵害があると認められたならば、不法行為に基づく損害賠償(民法709条、710条)、及び名誉を回復する措置(謝罪広告の掲載等。民法723条)を請求することができます。

3 特にインターネットの掲示板に匿名の書き込みが行われた場合には、特殊な対応が必要です。

掲示板への書きこみについては掲示板の運営者に対して当該書き込みを削除するように請求できます。請求する際には、削除を請求する部分を具体的に特定するとともに、書きこみが会社や同僚の権利を侵害していることを具体的に示すことが重要です(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律3条1項参照。同法の略称は「プロバイダ責任制限法」。)。

また、匿名で書きこみを行った者を特定するために、掲示板の運営者にIPアドレスおよびタイムスタンプの開示を請求します。その後、開示されたIPアドレスに基づき、プロバイダに対して、発信者の氏名、住所等の開示を請求します(プロバイダ責任制限法4条1項)。

4 会社の具体的対応としては、事実関係の調査を尽くしましょう。

①当該社員が実際に書きこみを行ったのか、②書きこみを行った時間・場所、③書きこみ内容の真偽等が調査の中心になります。①②は上記のプロバイダなどによる情報開示がない限り難しいですが、③についてはヒアリング等で調査可能です。

調査結果については、あとからの改変が疑われないようにするためにも、書面化した上で、さらに公証役場で確定日付を得ておくと、刑事上、民事上の措置を執る場合の証拠とする際の信用性が高まります。

5 本件の場合は、Aの書きこみ行為について、①当該社員が実際に書きこみを行ったのか、②書きこみを行った時間・場所、③書きこみ内容の真偽等の調査を尽くす必要があります。

事実関係が確認されたなら懲戒処分、民事上、刑事上の請求を検討していきます。刑事上の手段としては、名誉棄損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)として刑事告訴することが考えられます。民事上の手段としては、書き込みによる会社・同僚の名誉侵害があると認められたならば、不法行為に基づく損害賠償(民法709条、710条)、及び名誉を回復する措置(謝罪広告の掲載等。民法723条)を請求することができます。