パワハラ(パワーハラスメント)
パワハラとは?定義と6つのパターン
パワーハラスメント、通称「パワハラ」は、現代日本の社会問題となりつつあります。
以下のグラフは、厚生労働省が公表した「都道府県労働局への相談件数(あかるい職場応援団:データでみるハラスメント)」
をグラフ化したものです。
このグラフを見てみると、パワハラの相談件数は平成19年度から増加傾向にあるのがわかります。
この現状を受けて、パワーハラスメント防止措置が事業者の義務となることが決定しました。
大企業は2020年6月1日、中小企業は2022年4月1日から対象となっています。
企業の経営者は、パワハラのリスクを正しく理解し、回避するための対策をとらなくてはなりません。
そのためにはまず、パワハラを正しく理解する必要があります。この記事では、
〇厚生労働省が定めるパワハラの定義
〇パワハラの6つのパターン
について、詳しく解説を行います。
厚生労働省が定めるパワハラの定義
厚生労働省が運営するハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」には、パワハラの詳しい定義が記述されています。
そこには、
「職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。」
とあります。
定義を解説する前に、この文章における「職場」と「労働者」について明確にしておきましょう。
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「職場」とは
パワハラにおける職場とは、労働者が業務を遂行する場所を指します。
たとえ、その場所が普段勤務する場所(会社や事務所)以外であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば、「職場」に含まれます。
勤務時間外の懇親の場(飲み会など)や社員寮の中、通勤地中であっても、実質職務の延長と考えられるものは「職場」と判断されます。
「職場」の例:出張先、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせの場所(接待の席を含む)など
「労働者」とは
正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者(パートタイム労働者、契約社員など)を含む、事業主が雇用するすべての労働者をいいます。
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①「優越的な関係を背景とした」言動とは
優越的な関係とは、職場でのパワー(地位や優位性)による関係性のことを指します。
例えば、上司や先輩などが考えられます。
明確な上下関係があり、「抵抗すると評価が下がるかもしれない」「拒絶したら職場での立場が失われるかもしれない」と感じる背景があれば、パワハラの3要素のうちの1つを満たします。
ただし、優越的な関係は、上司や先輩など目上の人だけが該当するわけではありません。
同僚や部下からの行為であってもパワハラ認定されるケースがあります。
たとえば、
〇同僚や部下による言動だが、言動を行う者が業務上必要な知識や経験を有しており、協力を得ないと業務が円滑にすすめられない
〇同僚や部下による言動だが、集団による行為で抵抗・拒絶が難しい
場合などが当てはまります。
②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは
一般的に考えて、業務上必要性がない、または相当ではないと考えられる言動のことを指します。
例えば、
〇業務上明らかに必要のない言動
〇業務の目的を大きく逸脱した言動
〇業務を遂行するための手段として不適当な言動
〇当該行為の回数、行為者の数等、そのありさまや手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
などが当てはまります。
この条件を判断する際には、言動の目的は何か、言動を受けた労働者に問題行為はなかったか、言動の経緯や状況はどうか、など様々な要素を総合的に考慮しなくてはなりません。
もし、パワハラを受けた側に問題がある(仕事が極端に遅い、勤務態度に問題がある)場合は、指導の範囲内だとされた判例もあります。
ただし、言動をした本人は指導のつもりであっても、人格を否定するような言葉を使うなど指導の範囲を超えていれば、当然パワハラに該当します。
③「就業環境が害される」とは
その言動により、労働者が身体的・精神的に苦痛を与えられ、これまでと同じように働けなくなることを指します。
感じ方は人それぞれ違うので、その人は苦痛だと感じても、ほかの人にとってはそれほどであることもあります。
この判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。
つまり、「ほかの労働者が同じ環境に置かれたときに、仕事ができなくなるほどショックを受けるか」が重要になります。
この①~③の条件全てにあてはまる行為が、パワハラだと認定されるのです。
パワハラの6つのパターン
職場におけるパワーハラスメントは多岐にわたりますが、代表的な言動として以下の6つの類型があります。
①身体的な攻撃
②精神的な攻撃
③人間関係からの切り離し
④過大な要求
⑤過小な要求
⑥個の侵害
それぞれについて詳しく説明します。
※この6つのパターンは、パワハラの中でも特に多い事例をまとめたものです。「この6つに当てはまらなければ、パワハラではない」と判断されるものではありません。これ以外の言動であっても、パワハラと認定される可能性があります。
①身体的な攻撃
パワハラの中でも最もわかりやすい典型的な言動です。
殴打する、足蹴りをする、相手にものを投げつける、など物理的・身体的に相手を傷つけることを指します。
タバコの火や薬剤、刃物などを近づけて脅す行為や、立ったまま仕事をさせる、休憩やトイレに行かせないなどの行為も該当します。
②精神的な攻撃
相手の心を傷つける言動のことを指します。精神的な攻撃を受け続けた結果、精神障害を患ってしまうケースが多いです。
人格を否定するような言動を行う、他の労働者の前で大声で叱責する、必要以上に長時間叱責するなどが当てはまります。
③人間関係からの切り離し
特定の労働者を職場内のコミュニティから仲間外れにすることを指します。
長時間別室に隔離する、同僚が集団で無視をして孤立させる、仕事を教えない・与えない
などの例が挙げられます。
④過大な要求
業務上明らかに達成できないレベルの目標を設定し、達成できないと厳しく叱責することを指します。
新入社員に十分な教育を行わないまま難しい内容の仕事をさせたり、業務とは関係ない私的な雑用の処理を強制することも含まれます。
⑤過小な要求
相手の能力に見合わない、誰でもできる業務を行わせる。気に入らない労働者に対する嫌がらせのために仕事を与えない。
といった、「本当はもっと難しい仕事をする能力があるのに、わざとさせない」ケースが当てはまります。
⑥個の侵害
労働者を職場外で監視したり、私物の写真撮影をしたりする。労働者の個人情報について、本人の了承を得ずに他者に話す。プライベートに過剰に踏み入ろうとする。
といったケースが当てはまります。
異性に対しての個の侵害は、場合によってはセクハラとなる場合もあります。
まとめ
ここまで、パワハラの定義と6つのパターンを解説しました。
実際に見ていただくとわかるかと思いますが、パワハラの定義や種類はとても複雑でわかりづらいです。
実際に身近に起こったことがパワハラと言えるかどうかは、そのときの状況や当事者たちの立場、業務の特色など、様々な面から総合的に考えなくてはなりません。
この判断の難しさが、パワハラ問題が事業主の頭を悩ませる理由の一つでもあります。
この定義と6つのパターンを覚えておけば、今実際に起こっていることがパワハラに当たるかどうか少しはイメージしやすくなると思います。
次の記事では、より詳しくイメージできるように、実際にあったパワハラに関する裁判事例を6つのパターンごとに紹介したいと思います。