障害者雇用促進法
障害者雇用促進法が改正され平成30年4月1日から施行されています。
事業主として注意すべき事項についてまとめております。
第1 改正の経緯
1 障害者雇用促進法は、障害者が、その能力と適性に合った職場において自立できるよう推進していくべく、度々改正されています。ここでは、障害者雇用促進法の障害者雇用率に関する主な改正点を取り上げます。
障害者雇用率制度とは、身体障害者及び知的障害者について、一般労働者と差別されずに常用労働者となり得る機会を与え、常用労働者の数に対する割合(障害者雇用率)を設定し、事業主等に障害者雇用率達成義務を課すことにより、障害者のこようを保障するものです。
障害者雇用に関する改正
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平成22年7月1日施行の改正
短時間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満)が、障害者雇用率制度の対象になりました。
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平成25年4月1日施行の改正
民間企業の障害者法定雇用率が1.8%から2.0%になり、これに伴い、障害者を雇用しなければならない事業主の範囲が従業員56人以上から50人以上に変わりました。
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平成27年4月1日施行の改正
障害者雇用納付金制度の対象となる事業主が、現行の201人以上から101人以上の事業主に拡大されました。障害者雇用納付制度とは、障害者法定雇用率(2.0%)を達成できない事業主は、その不足数に応じて1人につき月額5万円の障害者雇用納付金を納付しなければならない制度です。これにより、障害者を雇用した事業主との経済的負担の不公平が是正されます。
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平成30年4月1日施行の改正
障害者法定雇用率の算定基準に精神障害者が新たに加えられます。ただし、施行後5年間は猶予期間となっています。
第2 平成25年改正が事業所に提示する合理的配慮の提供義務とは
具体的に改正内容を事案にそって検討します。
1 事案
Q弊社は大阪にあるヘアブラシ製造会社です。身体障害者(肢体不自由)3名、知的障害者2名を雇用しています。改正障害者雇用促進法の施行により具体的にどのようなことをしなければなりませんか
最近車いすを使用している障害者からバリアフリー化を求められたのですが改正法ではこのような措置まで義務付けられるのでしょうか
A 改正障害者雇用促進法により、事業主に合理的配慮義務が課されることになりました。そのため、事業主には、障害者が職場で働くにあたっての支障を改善する措置を講ずる義務があります。もっとも、過重な負担にあたる場合には、当該措置を講じる必要はありません。
2 解説
- 改正点の解説
主な改正点は、以下の5点です。
- 障害者に対する差別の禁止(改正障害者雇用促進法34条乃至36条、36条の6)
※すべての事業主が対象
雇用に関するあらゆる局面(募集、採用、賃金、配置、昇進、教育訓練等)において、障害者であることを理由として障害者を排除すること、障害者に対してのみ不利な条件を設けること及び障害者よりも障害者でない者を優先することは、障害者であることを理由とする差別に該当し、禁止されます。
ただし、積極的是正措置として障害者を有利に取り扱うことや、合理的配慮を提供し、労働能力等を適正に評価した結果といて障害者でない者と異なる取り扱いをすること、合理的配慮に応じた措置をとることは、障害者に対する差別にはあたりません。
- 合理的配慮の提供義務(改正障害者雇用促進法36条の2乃至36条の6)
※すべての事業主が対象
事業主は、募集、採用及び採用後の取扱いに関し、障害者にとって支障の支障を改善するための措置を講ずることが義務付けられます。
ただし、配慮措置を講ずることが事業主に対して過重な負担となる場合には、事業主は、当該配慮措置を講ずる義務を負いません。
- 苦情処理・紛争解決援助(改正障害者雇用促進法74条の4乃至74条の8)
※すべての事業主が対象
事業主は、障害者からの相談に対応するために、相談窓口の設置等の相談体制の整備が義務付けられています。
また、事業主は、障害者に対する差別禁止や合理的配慮の提供に関する事項について、障害者からの苦情を自主的に解決する努力義務を負います。
自主的な紛争解決が困難な場合には、紛争当事者の双方または一方の申出に基づき、都道府県労働局長による助言・指導・勧告または障害者雇用調停会議による調停により紛争解決を援助する仕組みが整備されています。
- 法定雇用率の算定基礎の見直し(改正障害者雇用促進法43条、附則4条)
※平成30年4月1日施行
平成30年3月31日までは、法定雇用率は身体障害者と知的障害者を算定基礎として計算した率(2.0%)がされていましたが、平成30年4月1日から法定雇用率の算定基礎に精神障害者が新たに追加されています。ただし、平成30年4月1日から5年間は、猶予期間とされています。
- 障害者の範囲の明確化
※平成25年6月19日施行
障害者の定義が明確化され、障害者とは、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。」(障害者の雇用の促進等に関する法律2条1号)とされました。
- 合理的配慮の提供義務
合理的配慮とは、募集及び採用時において、障害者と障害者でない者との均等な機会を確保するための措置こと、及び、採用後において、障害者と障害者でない者との均等な待遇の確保または障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための措置のことをいいます。
事業所によって、求められる配慮は異なります。また、障害の種類や等級の程度によってだけでなく、障害者一人ひとりの個性によって個別の配慮をする必要があります。そのため、具体的にどのような措置を執るかについては、障害者と事業主との話し合いにより決める必要があります。
- 過重な負担とは
合理的配慮は、過重な負担にならない範囲で事業主が講じる義務を負います。過重な負担とは、①事業活動への影響の程度、②実現困難度、③費用負担の程度、④企業の規模、⑤企業の財務状況、⑥公的支援の有無の6つの要素を総合的に勘案して、個別に判断します。
- 改正障害者雇用促進法の施行に伴い事業主が行うべきこと
- 対象となる障害者の確認
事業主は、合理的な配慮を講ずべきであるか、障害者の有無を確認する必要があります。労働者からの申し出があった場合には、障害者手帳等により確認を取りましょう。
一方、労働者からの申し出が無かった場合には、メールや書類の配布による呼びかけを行うことが考えられます。このような行為により事業主が必要な注意を払っていても障害者であることを把握できなかった場合には、事業主は、合理的な配慮義務を負いません。
- 事業所において障害者の支障となる事由の確認
事業主は、合理的配慮義務の対象となる障害者に対して、定期的に障害者にとって支障となる事由が事業所に存在するかを確認する必要があります。
- 障害者からの苦情に対応できる制度の確立
事業主は、障害者からの相談に対応するための体制を整備する必要があります。具体的には、相談窓口を設置し、その周知を行うこと。相談したことを理由とする不利益な取り扱いをしないことが挙げられます。
- 合理的配慮の具体例
身体障害者、知的障害者及び精神障害者に対して提供されている合理的配慮の実例としては以下のものがあります。
- 肢体不自由
業務指導や相談に関しての担当者を決める。車椅子が容易に動かせられるようスペースを確保する。
- 聴覚障害
業務指導や相談に関しての担当者を決める。指示や相談対応においてPC、メール、ホワイトボード等を用いて意思を計る。事業所内に置いて危険な場所を予め認識しておく。
- 知的障害
業務指導や相談に関しての担当者を決める。本人の混乱を避けるため、相談を受ける者を限定する。業務の内容を障害者の習熟度等を見極めて決定する。業務内容等が確認できるマニュアルを作成する。
- 精神障害
業務指導や相談に関しての担当者を決める。業務内容等が確認できるマニュアルを作成する。マニュアルに従えば担当者以外の者であっても作業の指示が出せるよう周知しておく。
- 車椅子を利用している従業員からのバリアフリー化の申し出について
バリアフリー化の申出に対する改善策について、①入居するオフィスビルを移転する、②通路やエレベーターの改修工事、③物の配置の改善、④移動の負担を軽減させるようなデスクの配置にする等が考えられます。
このうち、①と②については、経済的負担がきわめて大きいことから過重な負担といえます。そのため、事業主は①と②に関して合理的配慮義務を負わない感応性が高いでしょう。
一方、③と④に関しては、物の配置により通路が広がり、車椅子での通行が容易になるのであれば、事業主はこれを改善しなければならないでしょう。また、車椅子での移動を減らすためのデスクの配置を考えることも容易であると感が言えられるため、事業主はこれを改善しなければならないでしょう。
まとめ
障害の特性は障害者一人ひとり異なり、労働環境も事業所ごとに多種多様です。そのため、合理的配慮義務の内容は個別に異なります。そこで、事業主および従業員は、障害者にとって支障をきたす事由があるのかを、障害者と話し合い、知る必要があります。そして、事業主ができる措置があれば、事業主は当該措置を執らなければなりません。