会社経営における経営者夫人の関わり方

 Iさんは、化粧品会社のサラリーマンの夫と結婚して十年。

 ある日、突然、夫から 「叔父の会社 (化粧品の包装資材を供給している業者) の社長になってくれと言われ考えていたんだが…。やむなく引き受けることにした」 と告げられました。

 Iさんに限らず経営者夫人は、一般の主婦とは異なった立場にあり、特別な心構えを持っていなくてはならないでしょう。

 

経営者夫人の在り方

経営者夫人の在り方経営者夫人の在り方を具体的に考えてみましょう。

 

第一に、「自分の立場を自覚して行動する」

 経営者夫人は通常のサラリーマンの妻とは立場が異なり、その責任は重く、行動の自由は束縛されて、自分の善意の行動や無意識の行動が、経営者の仕事や人物評価に影響することを認識しなければなりません。

 そして、それを自覚するのは、夫との話し合いや関係先の行動等を通じて、会社の中での経営者がどのような立場にいるのかを知るからです。

 前述のIさんは、夫に頼まれた資料を会社に届けに行く途中、倉庫の隅で社員同士の 「あのバカ社長が…」という話を耳にしたとき、頭にカッと血がとったそうです。

 その時のことを十数年たった現在でも忘れられない、と言います。その後のIさんは、“経営者である夫がいかに孤独であるか”を知り、これからは“シッカリと手助けする”と決心したということです。

 

第二に、「問係者との接触・態度に気を配る」

 取引先や銀行、社員、地域団体などは、経営者夫人の態度によって会社を評価することが多いようです。

 また、父子、兄弟が会社の中で働いているときには、それらの夫人 (姑や義妹等) との関係を良くすることに努めなければならなくなります。

 これは、夫人同士の争いが社内での活動をギクシャクさせることに飛び火する可能性もあるからです。

 

第三に、「家庭生活に気を配る」

 家庭生活の雑事に夫を巻き込まないことは当然として、それ以外に、夫の健康への配慮が大切です。

 さらに、多忙な経営者が求めているのは、サラリーマン家庭と同様、心身の憩の場であることを忘れてはならないでしょう。

 

経営者夫人の経営への参画

 では、経営者夫人が経営に参画するときの注意点を見ていくことにします。

 

1)参画のプラスとマイナス面 について

 経営者夫人が夫の会社で働くことも珍しくはありません。

 ただし、大きく違うのは、経営者夫人が会社で重要な地位にあるため、経営に大きな影響を及ぼすことと、その地位が経営者の妻という立場で得ている、という点です。

 そして、この点から経営者夫人は会社経営に大きなプラス面とマイナス面を生じさせます。

 まず、プラス面からみると、①経営者は信頼できる協力者として心強いし、重要な職務を担当させることができる、②経営者と社員との問の潤滑油の役割を果たすことができる、③経営者に不慮の事故が起きたとき、会社の混乱を小さくさせると期待できる、等です。

一方、マイナス面では、①会社に同族色が強まったり、権限の濫用などが生じる恐れがある、②経営者との協力関係が円滑にいかないと、職場に混乱が生じる、③会社の仕事にウエイトがかかってくると、家庭生活がイビツになってきたり、何よりも、経営者自身の健康を損なう恐れが生じる、等です。

 したがって、プラス面とマイナス面のバランスを上手にとれば良い、ということになります。

 

2)経営参画の判断について

経営者夫人が、経営にどの程度、また、どういう形でかかわりを持つかは、次の三点から総合的に判断することになると思います。

一つ目は、経営者の夫がそれを希望しているか否か、二つ日は、経営者夫人本人にその希望があるか否か、三つ目は、会社の経営および業務面から見て、夫人の参画が必要か否か、です。

 前述のIさんの例。 Iさんは、2年間、夫の社長業を見ていました。

 経営がうまくいかず悩んでいる夫に、経営講習会の参加を勧めたり、夫のグチを粘り強く聞き励ましたりしました。

 社長I氏は講習会に出席した翌日は、社員の前で“会社組織とは”と言った内容の話をし、社員に陰では馬鹿にされたり、古くからの幹部社員からの話を鵜呑みにしては失敗したり…と。

一年目、二年目と売上は減少するばかり…。特に経営に打撃を与えたのは社員が二人、三人、五人と辞めていったことです。

 I氏の社長就任の時にいた社員は一五名。それが二年後では八名。

 やむにやまれず夫人のIさんは経理担当として入社。顧問の会計事務所から職員を派遣してもらいながら、何とか処理していく半年間だったとIさんは述懐します。

 それやこれやで現在、Iさんを含め社員は一三名。業績は順調です。

 

3)業務の分担と処遇について

 経営者夫人といえども会社内で特定の業務を分担する以上は、会社組織の一員にすぎず、会社内での経営者との関係は 「夫と妻」 ではありません。こと、中小同族会社では、公私混同に注意しなければなりません。

 例えば、「肩書き」 について、本人の能力と担当業務に相応したものでなければなりません。肩書きの 「安売り」 が本人の負担になるのならまだ良いですが、ときにそれが大きな業務上の失敗を生じさせる恐れもあります。

 次に 「勤務態度」 の問題。

 他の社員と同様でなければならないことは当然のことです。

 経営者夫人が会社の仕事の他に主婦業も兼務しているといえ、それは個人的な事情であり、社員でいる以上、持ち込んではなりません。他の社員は、経営者夫人という立場をみて、大目に見てくれていると心し、自分自身の行動を律していく必要があります。

 さらに問題になるのは、経営者夫人の「給与」です。

経営者夫人が会社から給与を受けることは、私財の蓄積に役立つと考えますが、いき過ぎた高給を受け取れば社員の勤労意欲を低下させることにもつながります。

 経営者夫人といえども、仕事に応じた肩書きと、肩書きに応じた給与を考えることは 「大切なこと」と考えるべきです。

 以上、経営者夫人のことについて述べてきました。夫人の素質によるところが大きいのですが、それ以上に経営にプラスにできるかどうかは、経営者の指導力に負っていると捉えるべきでしょう。