休憩時間中の電話当番の賃金を要求する社員への対応

Q X社では、昼の12時から13時までを昼休みとして、従業員に休憩をとらせている。昼休みにも電話がかかってくることがあるため、従業員に当番制で電話対応させている。この電話対応をさせた者について、昼休みも労働時間であるとして給料を支払わなければならないか。
 また、昼休み後の業務の都合上、従業員の居場所を把握しておきたい。昼休みの外出を制限し、または外出の際には届出をさせることができるか。

A 1 休憩時間は勤務時間の途中で社員が精神的・肉体的に一切の労働から離れることを保障されている時間をいい、精神的・肉体的疲労を回復させることで、勤務能率を増進し、災害を防止することを目的としています。

 

 休憩時間は実質的に会社の指揮命令から完全に解放されていることが保障されるので、勤務時間には含まれず、賃金の支給対象にはなりません。休憩時間というには、労務からの完全な解放が必要であるため、現実に作業をしていなくても、会社からいつ就労の要求があるかもしれない状態で待機している時間(手待時間)は、労働時間となります(昭22.9.13基発17)。

 

 また、休憩時間については労働基準法において、①途中付与の原則(労基法34条1項)、②一斉付与の原則(労基法34条2項)、③自由利用の原則(労基法34条3項)が定められています。

 

2 昼休み中に電話対応させることは、その従業員に電話のそばにいて、かかってきた電話に対応させることになるので、上記「自由利用の原則」に反し、またその時間は労働から完全に解放されているとはいえません。

 

 判例は労働時間か否かの基準として、「使用者の指揮命令下」から離れて、「労働からの解放が保障」されているかを問題とする(大星ビル管理事件・最判平14.2.28・労判822-5)。同判例においては、仮眠時間中に警報や電話への対応をすることが業務上義務付けられていたビルの管理人について、仮眠時間を労働時間と認めています。

 

 ただし、同判例は例外についても判断し、仮眠時間中の業務対応が義務付けられていても、「その必要性が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができる事情」がある場合には労働時間に当たらないとしています。行政解釈においても、電話や来客対応のために待機している時間は労働時間とされています(平11.3.31基発168)。

 

 X社の事例では、昼休み中電話がかかってくることがほぼなく、電話対応の必要性がなかったというような例外的な事情がない限り、X社の指示で電話当番をしていた昼休みは使用者の指揮命令下にあり、労働から解放されていないので労働時間となるでしょう。この場合、X社は労働者に給与を支払ったうえ、必要な場合には時間外手当を支払い、別に休憩時間をあたえる必要も出てきます。

 

 では、労働者に電話や来客対応をさせた上で、時間外労働等の問題が生じないようにするにはどうすべきでしょうか。まずは、昼休みの時間を前半組と後半組で分けて、一方の休み中に他方に通常の業務をさせて、その中で電話・来客の対応をさせる方法が挙げられます。

 

 この場合には、休憩時間の一斉付与の原則(労基法34条2項)に反することになるので、労基法の労働時間規制の適用除外の業種でなければ(労基法40条、労基法規則31条)、労使協定を締結する必要があります(労基法34条2項ただし書)。

 

 次に、「管理監督の地位にある者」や「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」など(労基法41条各号)、労基法上労働時間の規制が及ばない者に電話・来客対応をさせることが考えられます。

 

3 昼休み中の外出制限、届出制については、「自由利用の原則」(労基法34条3項)との関係で問題となります。自由利用の原則によると、労働者は休憩時間中に外出することも自由です。もっとも、休憩時間中は会社の指揮命令下から解放されているだけであって、労働契約上の拘束時間中です。

 

 したがって、自由は絶対的なものではなく、後に続く業務に支障がないように、飲酒の禁止、設備の不当な利用禁止、他の従業員の休憩の妨害禁止するなど、企業活動の円滑な遂行の見地からの合理的な制約を加えること、休憩の目的を害さない限り差し支えありません(昭22.9.13基発17)。

 

 昼休み中の外出制限、届出制については、昼休み終了後の業務の再開などのために、労働者が職場にいるかどうかを把握することは会社にとって合理的といえるため、職場内での自由が確保されていれば、そのような制限を加えても差し支えないといえます。

 

4 本件ではどうでしょうか。X社の事例では、昼休み中電話がかかってくることがほぼなく、電話対応の必要性がなかったというような例外的な事情がない限り、X社の指示で電話当番をしていた昼休みは使用者の指揮命令下にあり、労働から解放されていないので労働時間となるでしょう。この場合、X社は労働者に給与を支払ったうえ、必要な場合には時間外手当を支払い、別に休憩時間をあたえる必要も出てきます。

 

 昼休み中の来客・電話対応について賃金の支払いの負担を軽くする方法としては、①休みを取るグループ分けをし、時間をずらすこと、②「管理監督の地位にある者」や「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」など(労基法41条各号)、労基法上労働時間の規制が及ばない者に電話・来客対応をさせることが考えられます。①の場合には、休憩時間の一斉付与の原則(労基法34条2項)に反することになるので、労基法の労働時間規制の適用除外の業種でなければ(労基法40条、労基法規則31条)、労使協定を締結する必要があります(労基法34条2項ただし書)。

 

 昼休み中の外出の届出制については、職場内で休み中の労働からの解放が保障されているならば可能であると考えられます。制度導入に際しては、明確なルール作りを行ったうえ、そのような届出制を導入する合理的理由をきちんと説明できるようにしておくことが必要となります。