上司の指示に従わない社員への対応

Q 自動車営業所を営むX社において、管理者に準じる地位にある労働者のAがいた。Aは業務中に組合員バッジをつけて業務していたため、これを取り外すよう命令した。
 しかし、Aがこの命令に従わずバッジの着用をやめようとしなかったため、Aを通常の業務である点呼執行業務から外し、営業所構内に降り積もり業務の邪魔になっていた火山灰の除去作業を命じた。
 以上のような業務命令は許されるか。

A 1 まず、問題となる業務命令が契約上認められるものであるかを確認しましょう。労働者は労働契約上の主要な義務として、契約の枠内で労働の内容・遂行方法・場所などについて使用者の指示に従った労働を誠実に遂行する義務を負います(誠実労働義務)。契約上認められる業務命令であれば、それを拒否する労働者は誠実労働義務違反となります。

 

 業務命令が契約上認められるかどうかは、業務命令に関する事項について、契約上使用者に処分が許されているかで決まります。契約書や就業規則で、一定の事項について労働者が業務命令に服するべきことを定めている場合には、その内容が合理的であれば契約の内容となっていると認められます。

 

 契約の解釈について判断が難しい場合は、専門家に相談することも検討してください。

 

2 冒頭のX社の事例では、①業務中の組合員バッジの着用をやめる旨の業務命令、②通常の業務でなく火山灰の除去作業をする旨の業務命令が問題となります。

 

 ①については、労働者は誠実労働義務の一内容として職務専念義務を負うところ、勤務時の組合員バッジの着用は就業時間中の組合活動として、職務専念義務違反となると考えられます。反戦プレート、闘争リボンの着用などもバッジ同様の問題がありますが、判例は就業時間中のバッジ、リボン等の着用は精神面、注意力の観点から職務専念義務に違反するとする判断しています(電電公社目黒電報電話局事件・最判昭和52.12.13・労判287-26、大成観光事件・最判昭57.4.13・労判383-19、国鉄鹿児島自動車営業所事件・最判平5.6.11・労判632-10)。

 したがって、①の業務命令は契約上認められると考えてよいでしょう。

 

 ②については、火山灰撤去作業が職場の環境整備、労務の円滑化・効率化に必要なものであること、通常会社の職員が行う作業であること等の事情があれば労働契約上の業務の範囲内といえるので、契約上認められる業務命令です。もっとも、休憩時間を与えない、過酷な状況下で行わせるなど具体的な内容によっては、社会通念上の相当性を有しないとして、合理性が認められないことがあるので注意が必要です。

 

3 契約上認められる業務命令を拒否する社員への対応としては、指示・注意、懲戒処分が考えらえます。業務命令違反を懲戒事由として就業規則などで定めていれば、懲戒処分を行うことが可能ですが、まずは指導・注意により改善を促しましょう。

 

 この指導・注意のなかでは、単に注意するだけでなく、命令を拒否する社員の真意を確認することが大切です。命令違反の理由は、仕事の好み、信条、現在の仕事への不満、自身の能力への不安など様々です。場合によっては、研修や訓練、部署の異動が懲戒処分よりも問題の本質の解決に役立つ場合があります。

 

 また、指導・注意は、可能な限り書面で行いましょう。なぜなら、会社が社員の改善に向けた努力を行った証拠や社員が業務命令や指導に従わなかった証拠になるからです。

 

 指導・注意で改善が見られない場合には、懲戒処分を検討しましょう。そして、懲戒処分を行う場合には、初めから重い処分をするのではなく、けん責などの軽い処分に留めましょう。軽い処分をしても全く改善が見られず、違反を繰り返すようであれば、出勤停止や減給などの重い処分を行うことを検討しましょう。手段を尽くしても一向に改善の見込みが見られないなど労働者の適切な労務の提供が期待できない場合には、諭旨解雇や懲戒解雇をすることも考えられます。

 

4 本件ではどうすべきでしょうか。冒頭のX社の事例では、①業務中の組合員バッジの着用をやめる旨の業務命令、②通常の業務でなく火山灰の除去作業をする旨の業務命令が問題となります。

 

 ①については、労働者は誠実労働義務の一内容として職務専念義務を負うところ、勤務時の組合員バッジの着用は就業時間中の組合活動として、職務専念義務違反となると考えられます。反戦プレート、闘争リボンの着用などもバッジ同様の問題がありますが、判例は就業時間中のバッジ、リボン等の着用は精神面、注意力の観点から職務専念義務に違反するとする判断しています(電電公社目黒電報電話局事件・最判昭和52.12.13・労判287-26、大成観光事件・最判昭57.4.13・労判383-19、国鉄鹿児島自動車営業所事件・最判平5.6.11・労判632-10)。したがって、①の業務命令は契約上認められると考えてよいでしょう。

 

 ②については、火山灰撤去作業が職場の環境整備、労務の円滑化・効率化に必要なものであること、通常会社の職員が行う作業であること等の事情があれば労働契約上の業務の範囲内といえるので、契約上認められる業務命令です。もっとも、休憩時間を与えない、過酷な状況下で行わせるなど具体的な内容によっては、社会通念上の相当性を有しないとして、合理性が認められないことがあるので注意が必要です。

 

 合理性を有する業務命令に違反するXに対しては、指導・注意を行ったうえで、それでも応じない場合には軽い懲戒処分によって改善を促していきます。