配転拒否する社員への対応
Q X社は機械製造と販売を行う会社であり、大阪と名古屋に営業所を有し、東大阪と名古屋に製造工場を置いている。大阪営業所には、営業職として働くAとBがいる。東大阪の製造工場には熟練機械工として働くCがいる。X社は人事異動として、Aには名古屋営業所での営業職としての勤務、Bには営業成績不良のため大阪で事務職としての勤務、Cには東大阪工場から名古屋工場への製造部門の移管に伴い機械工ではなくライン作業での勤務を命じたい。A、B、Cはそれぞれこの配転に不満を唱えているが、X社として上記のような配転の命令ができるか。
A 1 「配転」は会社内での社員の変更のうち、勤務内容又は勤務場所が相当長期にわたり変更されるものをいいます。一般に、同一勤務地内での勤務配置の変更を「配置転換」、勤務地の変更を「転勤」といいます。
会社の配転命令に対して、労働者がこれに応じず、命令通りの職場・職種での勤務を拒否する場合、①配転命令が有効であれば労働者の労務提供債務の不履行となり(民法415条)、②配転命令が無効であれば、使用者の受領遅滞(民法413条)となります。
①の場合は、労働者を説得し、新職場での労務提供の機会を与え、拒否の理由確認と弁明の機会確保等の手続きを尽くしたうえで、それでも配転を拒否する場合に懲戒処分や解雇を検討することになります。
②の場合は、使用者は労働者の責任を追及できず、元の職場での勤務を認めねばなりません。また、配転拒否による欠勤期間の給与も労働者に払わなければなりません。
2 会社には労働者を出来るだけ解雇せず有効活用するために、原則として配転命令権があると認められています。なお、配転命令権を明確にするために就業規則や労働協約に配転条項を設けるのが一般的です。 したがって、会社の配転命令は原則有効であり、これを拒否すれば労働者の債務不履行となります(上記①に該当)。
もっとも、例外として、職種限定の特約がある場合、配転命令権の濫用の場合には、配転命令は認められません(上記②に該当)。
職種限定の特約は、労働契約上、職種や職務内容、勤務内容が限定されている場合であり、この場合には社員の同意なく配転命令をすることはできません。限定の合意は明示的でなくても、黙示の合意が認められる場合があります。特殊な技術・技能・資格を有する者の職種を定めて雇用した場合、長年同一の専門職種に従事させている場合などには、黙示の合意があると判断され、これと異なる配転が無効とされる場合があります。この点について、アナウンサーの職種限定の合意に有無が問題となった裁判例、判例があります(配転否定:日本テレビ放送網事件・東京地決昭51.7.23・労判257-23、配転肯定:九州朝日放送事件・最判平10.9.10・労判757-20)。
配転命令権の濫用かどうかは、会社側の事情と社員側の事情を比較衡量して判断されます。
具体的には、(1)業務上の必要性、(2)他の不当な動機・目的の有無、(3)社員への影響という観点から判断する(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14・労判477-6)。
(1)業務上の必要性については、当該労働者の配転につき、企業の合理的運営に寄与する点があれば足り、余人をもって替え難いほどの高度の必要性までは要求されません。(2)業務の必要とは関係のない配転は濫用となります。例えば、組合活動への報復や、退職に追い込むための配転です。(3)社員への影響としては、社員に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」が及ぶかどうかが基準になります。
3 配転命令が有効な場合の問題社員への具体的な対応としては、当該社員に対して、旧職場での労務の提供を拒否することを明確に示すため、文書で警告書などを送付します。また、各職場ごとのセキュリティカード、アクセス権限付与、端末の貸与がある場合には、これらの回収、抹消の対応をとることも検討しましょう。
労務提供義務の不履行は、重大な労働契約違反となりますが、数日の出社拒否等の場合には懲戒処分を下したり、解雇したりすることは困難です。まずは、業務の必要性や人選理由などの配転命令の有効性の根拠を直属の上司から説明させ、当該社員に労務提供の機会を与えます。
そして、配転拒否の理由も確認して弁明の機会を与えましょう。配転命令権の濫用とされないために、当該社員の懸念事項について、対応できる点は丁寧な説明・配慮をすることが望ましいです。このような手続きの過程は、日時・内容を書面に記録しておくようにしましょう。
以上のような手続を尽くしても配転に応じない場合には、懲戒処分や解雇などを検討していきます。
4 上記事例のABCの配転については、X社に原則として配転命令権がある事を前提に、まず職種・勤務地限定の特約があるか、次に配転命令権の濫用となるかという例外の該当性を検討していきます。
職種・勤務地限定の特約があるかについては、基本的には契約締結段階での当事者の合意の解釈によることになります。Aならなば大阪営業所に限定していたのか、Bならば営業職に限定していたのか、Cならば技能を要する機械工に限定していたのかが問題となります。
一般的には特に明示的に限定がない場合には、正社員について職種・勤務地限定が認められることは少ないでしょう。
配転命令権の濫用の有無に関しては、2記載のように業務上の必要性、他の不当な動機・目的の有無、社員への影響という観点から、会社側の事情と社員側の事情を比較衡量して判断判します。Aのように勤務場所が大阪から名古屋となり、住居移転の必要がある場合には労働者の不利益が問題となりますが、一般に業務上の必要性が認める限り、転勤や単身赴任の不利益は通常甘受すべき不利益と判断されます。例外としては、高齢や傷病の家族の介護・看護の必要から住居の移転が困難であると言う場合が挙げられます。
配転命令が有効な場合には、上記2の対応をとることになります。
(警告書の例)
警告書 平成〇年〇月〇日 〇〇部〇〇課 人事部長 記 貴殿に対しては、平成〇年〇日付辞令により、平成〇年〇月〇日付けで、〇〇部〇〇課勤務が命じられていますが、貴殿は、この命令に対する異議に基づき、何らの指示も理由もないのに、〇月〇日以降、同課に出社していません。 以上 |
(警告書の例2)
警告書 平成〇年〇月〇日 〇部〇課 人事部長 記 貴殿に対しては、平成〇年〇月〇日付警告により、直ちに〇〇課に出頭し、同課での勤務を開始するよう警告いたしました。 以上 |
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