会社のパソコンやスマートフォンを私的に利用する社員への対応

Q X社では業務の都合上、社員一人一人に専用のPC、スマートフォンとメールアドレスを貸し与えている。ところが、就業時間中に業務と関係ないインターネット上のHP閲覧や私的メールでの使用があとを絶たない。このような社員の問題行動への対応はどうすべきか。また、使用状況の調査・監視は可能か。

A 1 PC、スマートフォンの私的利用は、刑法上は利益窃盗と評価され、処罰対象ではありません。しかし、労働者は労働契約上、使用者に労務提供の義務を負うところ、就業時間中はその職務に専念する義務を負うので、会社の許可・承認なく業務以外に時間を浪費することは当該義務違反となります。

 

 したがって、こういった行為について就業規則で懲戒事由として定めていたならば、使用者は当該行為を行った労働者に対して相当な懲戒処分を下すことができます。

 

2 予防としては、まず社内ルールを策定し、社員に周知しましょう。PCやスマートフォンの利用についてどういう行為を会社は禁止しているか、会社が利用記録を閲覧する可能性があること、懲戒規程を設けていることなど明確に示しましょう。実効性を高めるためには、PC等の起動時にルールが示されるようにするなどの周知徹底の工夫が必要です。

 

 なお、近年ではSNSによる会社の情報漏えい、宣伝用アカウントでの不適切な投稿といったSNSをめぐる問題があります。会社のPC、スマートフォン利用のルール策定の機会に、併せてソーシャルメディアポリシーの策定も検討することが望ましいです。

 

3 社員のPC・スマートフォンの使用状況の監視・点検については、就業規則に監視・点検について定めがあるかどうかで可能な範囲が異なります。

 

 あらかじめ監視・点検を行う旨の定めがあるならば、労働者は初めからプライバシーのない通信手段として会社の業務用機器を使用するということになるので、問題が生じた場合だけでなく、日ごろから使用状況の監視・点検をすることができます。

 

 そのような定めがない場合には、合理的な必要性があり、その手段方法が相当である場合に監視・点検が可能となります。この点については、裁判例として、セクハラ調査のための社内メール閲覧について争われた事案(F社Z事業部電子メール事件・東京地判平13.12.3・労判826-76)、誹謗中傷メール調査のための社内メール点検について争われた事案(日経クイック情報電子メール事件・東京地判平14.2.26・労判825-50)があります。

 

 さらに、使用状況の監視・調査については、個人情報の取得になるので、個人情報保護法との関係でも問題になります。具体的には、会社が個人情報取扱事業者に該当する場合、監視や点検によって取得する個人情報の利用目的を、あらかじめ特定して、労働者に公表・通知しなければなりません(個人情報保護法15条、18条1項)。会社は本人の同意なく、取得した情報を特定した目的外に使用したり、第三者に提供したりすることができません(同法16条1項、23条1項)。

 

4 私的利用がある場合には、まずは当該労働者に私的利用の中止を要請しましょう。中止の要請は上司から口頭で行い、会社が利用料を払い業務の為に社員に使用を許すものであること、私的利用は社員の義務に反することを説明しましょう。口頭の注意で効果がない場合は、文書での送付を行います。

 

 注意では効果がない場合は、厳しい懲戒処分などを検討することになります。厳しい処分を下すには、客観的な根拠によることが必要となるので、使用状況の調査と記録化を行いましょう。通話、通信の記録については、契約会社への問い合わせで調べる必要があります。スマートフォンのアプリ等の使用については、端末そのものを差し押さえる必要があるので、そのための社内規定もあらかじめ設けておきましょう。

 

 懲戒処分の相当性については、以下のような裁判例があります。

 ①専門学校の教師が、勤務時間中にいわゆる出会い系サイトに投稿し、関連するメールの送受信をしていた事案では、当該教師の行為は、「職責の遂行に専念すべき義務等に著しく反し、その程度も相当に重」く、「著しく軽率かつ不謹慎であるとともに、これにより控訴人学校の品位、体面及び名誉信用を傷つけるものというべきである」として、懲戒解雇も相当とされました(K工業技術専門学校私用メール事件・福岡高判平17.9.14・労判903-68)。

 

 ②外資系広告会社で秘書業務などを行っていた社員が、勤務時間中に1日あたり2通程度の私用メールを送受信したことなどを理由とする解雇が行われた事案では、「社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものでない」として解雇が無効とされました(グレイワールドワイド事件・東京地判平15.9.22・労判870-83)。

 

(警告書の例)

警告書

 

〇〇部〇〇課
 〇〇〇〇殿

〇〇部 部長
〇〇〇〇

 貴殿は、・・・(時期、具体的行為)を行いました。貴殿のこの行為は当社就業規則第〇条第〇項に違反します。今回は本書による警告にとどめますが、今後、貴殿が同様の違反行為を行う場合には、当社は就業規則に従って懲戒処分にいたしますので、十分にご注意ください。

 

(スマートフォン使用規約の例)

スマートフォン利用規約

第〇条(貸与端末の使用)
 会社より使用されたスマートフォンの私的利用は禁止し、会社が返還を求めた場合、使用者は異議なくスマートフォンを、現状のまま直ちに返還する。

 

第〇条(閲覧・点検)
 前条の規定その他、スマートフォンの適切な運用を維持し、不適切な運用を調査するために、スマートフォンの使用状況を監視し、点検することができ、スマートフォンの使用者は、会社が請求する場合には異議なく監視や点検に必要な協力をする。

 

第〇条(個人情報の利用目的)
 前条の規定に基づいて会社が取得した使用者の個人情報は、営業秘密の漏洩防止・調査、私用メールの乱用防止・調査、スマートフォンの適切な運用維持・調査のためにのみ用いる。

 

第〇条(使用料金)
 会社より貸与されたスマートフォンに関わる機器代金並びに通信費は、会社が負担する。個人所有スマートフォンを業務で使用している場合の通信費については、会社が協議の上で判断する。

 

第〇条(貸与端末に関する料金プラン等)
 会社により貸与されたスマートフォンに関する料金プランやサービスの内容は会社が決定する。スマートフォンの使用者は会社の許可なく料金プランを変更し又は付加サービスへ加入することはできない。

 

第〇条(貸与端末の機種変更)
 貸与されたスマートフォンの機種変更は専ら会社が行う。端末使用者は会社の許可なく機種変更を行うことはできない。