ストーカー行為をする社員への対応
Q 以前セクハラで問題となった社員が、女性社員に対して、一緒に食事をしたい旨記載したメールを何通も送ったり、退社時に待ち伏せしたりしているようです。会社としては、このようなストーカーが疑われる社員に対してどのような対応をすべきか。警察への通報と社内での対応どちらを行うべきか。
A 1 「つきまとい等」や「ストーカー行為」によって、相手方に身体の安全が害される等の不安を覚えさせることは、ストーカー行為等の規制に関する法律で禁止されています。
ストーカー行為の相手方は、その状況に応じて、警察に対して援助、警告、禁止命令、仮の命令を求めることが可能となっています。
会社は労働契約上の義務として職場環境配慮義務を負っています。その内容として、会社にはストーカーの予防の義務、事後的に適切な対応をする義務を負っているといえます。
ストーカーの事例で特に会社が注意すべきなのは、事実関係の確認が取れるまで対応しないという慎重な態度よりも、被害者の安全をまず確保を優先すべきことです。すでにセクハラが問題となっている場合には、ストーカーに発展することを予測できるため、予防義務違反と評価されやすいので注意が必要です。
2 具体的な対応としては、まず、会社としては被害者自信が対応するように意識付けを行うように努めましょう。会社が良かれと思い対応しても、被害者から余計なことをしたと思われる場合もあるので注意が必要です。
次に、被害者のおかれた状況をしっかり把握した上で対応を検討しましょう。裁判例では、会社代表者が女性社員に対して過度な干渉を行っていたとされた事案で、女性社員が代表者から高額な経済的利益を享受していたことから不法行為に当たらないとされたものがあります(S工業事件・東京地裁平22.2.16・労判1007-54)。
そして被害者の置かれた状況を把握した上で、基本的には警察への相談を検討しましょう。現在では警察はストーカー対策室を設置し対応を行っているので、会社担当者が被害者とともに相談に行くことが望ましいです。例外的に、被害者が警察沙汰にすることを拒み、かつ被害者への危害や他の従業員への被害拡大が生じる可能性が低い場合には、警察に相談せずに会社が被害者をサポートすることを検討せざる得ないでしょう。
会社が被害者と接触して、調査・対応を検討する場合には、加害者には悟られないように注意しましょう。加害者がストーカー行為をエスカレートするおそれがあるからです。
3 会社がストーカー行為を確認した場合には、解雇を含めて具体的な対応・処分を検討します。この場合、会社としてはその責任を果たすためには、厳しい対応を取る必要がありますが、他方で重い処分をすると加害者の逆恨みが被害者に向く可能性もあるため、悩ましい場面があります。そこで、警察に公的な立場からの仲介をしてもらうことが、禍根の無い解決に適切なことがあります。
加害者には職場からいなくなってもらうことが望ましいからといって、即時解雇したとしても、加害者が職場外で被害者に報復に出ることも考えられます。この場合に、加害者がもう社員ではないからといって、会社の法的責任が問われないとは限りません。また、道義的にも従業員の安全を確保するために最善を尽くすべきといえます。
懲戒処分をする場合には①二度と被害者に会わないことを約束させ、②何かあれば、被害者の弁護士や警察が直ちに動くと警告する必要があります。さらに③会社として「本来であれば懲戒処分や解雇などの厳正な処分を相当と判断するが、自ら身を引くのであれば、異なる対応の余地もある」等と説明し、加害者が逆恨みをしない条件を提示するとよいでしょう。
また、懲戒処分では、その相当性も問題となるので、他の懲戒事例との均衡も図り、行為の悪質性の程度に見合う処分を行いましょう。被害者への危害のおそれのあるストーカーでは、被害者の安全確保の必要性という特殊性から例外的な対応も許容されるでしょう。会社の介入で改善が見込まれる行為の場合には、けん責などの軽い処分に留めることも考えられます(下記、けん責処分通知書を参照)。
(けん責処分通知書)
けん責処分通知書 平成〇年〇月〇日 〇〇部〇課 〇〇部長〇〇 印 記 貴殿は、平成〇年〇月〇日、〇〇部〇〇課の女性に対し、一緒に食事をしたい旨の記載したメールを1週間で150通送信したり、退社時に待ち伏せしたりしました。かかる行為は、当社就業規則第〇条第1項の「他人に不快な思いをさせ、会社の秩序を乱す行為」に該当するので、けん責処分とします。 以上 |
4 では本件ではどうすべきでしょうか。 会社としては女性社員に自身での主体的対応をするように意識づけた上で、当該社員からのヒアリングにより状況をしっかりと把握することに努めることになります。
本件では当事者の従前の関係性や女性側の対応も明らかでなく、拒否してもなおメールや待ち伏せを続けるかは微妙な事例といえるでしょう。事実の調査から、被害拡大の可能性をしかるべき部署・立場の者が検討し、会社としての対応を判断していくことになります。
被害拡大のおそれがある場合には警察などの公的機関に介入を頼ることを躊躇しないことが重要です。
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