勤務成績の悪い者への退職勧奨
Q X社では業績の悪化からリストラを検討している。整理解雇を行う前に、勤務成績の悪い社員に対して自主退職を促す退職勧奨を行いたい。退職勧奨を行う上での法的な留意点はなにか。
A 1 会社の人員削減の手段として解雇は最終手段であり、退職勧奨を行い合意による退職を目指すことは一般的にみられます。退職勧奨は解雇に比して緩やかな要件で認められ、合意を前提にするので、トラブルに発展する可能性は低く、訴訟リスクの点で人員削減手段として有用といえます。
2 退職勧奨は無制限になしうるわけではなく、社員の事由な意思を尊重することが必要となります。したがって、法的には退職の合意形成が社員の任意により行われたか否かが問題となります。
考慮する事情としては、説得の回数、手段、方法、態様等が社会通念上相当であることが求められ、その態様が強制的であったり執拗であったりする場合には、社員の精神的自由権の侵害として行った上司に不法行為が成立し(民法709条)、会社には使用者責任が成立します(民法715条)。
退職勧奨の際には、説得の際にはある程度の情報開示が必要となります。ここで注意すべきなのが、「退職勧奨に応じなければ、解雇することになる」といった不利益の提示は、強迫的な要素として評価されかねないことです。裁判では、人員削減の必要や当該社員の活躍の場がないことなど退職勧奨に至った説明については肯定的に評価され、退職に応じない場合の不利益の説明は否定的に評価されるという傾向があります。
3 事前の対応については、退職条件の設定が必要です。退職金の額や再就職支援などの整備状況が退職における「社員の自由な意思形成」の有無にもかかわってくることがあります(サニーヘルス事件・東京地判平22.12.27・労判1027-91)。退職者の選定については、公平で客観的な理由が基準を設けることが任意性の基準一つとなりえます。
退職の合意ができた場合には、後日の翻意によるトラブルの発生を防止するために、退職条件、清算条項、守秘義務条項等を記載した退職合意書を交わしておく必要があります(後記の例参照)。
(退職合意書の例)
退職合意書 〇〇株式会社(以下、「甲」といいます。)及び〇〇〇〇(以下、「乙」といいます。)は、乙が円満に甲を退職するに当たり、以下の通り合意します。 第1条(合意退職) 第2条(退職日までの給与及び退職金等の支払い) 第3条(誠実義務) 第4条(守秘義務) 第5条(清算条項) 平成〇年〇月〇日 甲 〇〇株式会社 乙 〇〇 〇〇 印 |
詳しくは、弁護士法人iまでご気軽にご相談下さい。
退職勧奨の解決事例はこちら>>
他の問題社員のケースは、以下をご覧ください。
- 経歴詐称していた社員への対応
- 採用内定取り消し
- 試用期間の性質と運用
- 試用期間中の者の本採用拒否
- 上司の指示に従わない社員への対応
- 残業しない社員への対応
- 欠勤を繰り返す社員への対応
- 取引先から金品を受け取っている社員への対応
- セクハラ行為をする社員への対応
- 厳しい叱責をする社員への対応
- ストーカー行為をする社員への対応
- 会社行事に参加しない社員への対応
- 備品を私的利用する社員への対応
- 会社のパソコンやスマートフォンを私的に利用する社員への対応
- 配転拒否する社員への対応
- 出向を拒む社員への対応
- 休憩時間中の電話当番の賃金を要求する社員への対応
- 無断残業で残業代稼ぎする社員への対応
- 繁忙期に長期休暇を取得する社員への対応
- 復職を一方的に要求する社員への対応
- 時間外手当を要求する年俸制社員への対応
- 正社員同等の賃金を要求するパートタイム社員への対応
- 不正請求を行った社員の損害賠償義務の精算
- 通勤手当を不正受給した社員への対応
- 問題社員の解雇
- 普通解雇と懲戒解雇の選択
- 懲戒解雇処分と退職金
- 勤務成績の悪い者への退職勧奨
- 退職後の機密保持の義務付け
- 他の社員の引き抜きをする元社員への対応
- 休日に職場の同僚に物品等を販売する社員への対応
- 勤務時間外に兼業している社員への対応
- インターネットに開発中の商品に関する書き込みをする社員への対応
- インターネット上で会社や同僚を誹謗中傷する社員への対応
- 社内不倫する社員への対応