取引先から金品を受け取っている社員への対応

Q X社で発注権限を有する従業員のYが、取引先に割増請求をさせて、水増し分の一部を不正に受け取っていた(リベート受領行為)。このような従業員への対応はどうすべきか。

A 1 リベート受領行為は、会社に不必要な出費をさせ、自身の利益を図るものであり、労働者の忠実義務違反、職場規律違反となります。就業規則に懲戒事由として、職務上の地位を利用した図利行為、取引先からの不正な金品・利益の授受、会社に重大な損害を与える行為等が規定してある場合には、懲戒処分の対象となります。

 

 また、損害の回復という観点からは、契約上の義務違反として債務不履行に基づく損害賠償責任の追及すること(民法415条)、不法行為に基づく損害賠償責任の追及すること(民法709条)、第三者に損害を与えて会社に使用者責任が問われた場合の求償をすること(民法715条1項、3項)が考えられます。

 

 リベート受領行為は、刑法上の犯罪行為である背任(刑法247条)にも当たり得るので、会社としては、当該労働者の刑事責任追及のために、被害者として告訴することも考えられます(刑事訴訟法230条)。

 

2 1で述べたいずれの責任追及の手段を採るにしろ、まずは事実関係の調査をすることが重要です。

 

 客観的な証拠を得るため帳簿等を調査し、水増し請求の額を特定する必要があります。そして、労働者本人や関係者からのヒアリングも必要です。ヒアリングの際には、後の言った言わないの水掛け論を防ぐために、書面に記録し、対象者に署名・押印させることが望ましいです。そしてヒアリングで明らかとなった事項・弁明については、客観的な裏付けが取れるものかの調査が必要です。

 

3 調査をもとに、懲戒処分を検討する場合には、その手続きと懲戒処分の選択ついて慎重な判断が要求されます。懲戒処分を適切に行うには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が要求されるので(労契法15条)、就業規則上の懲戒事由に該当したとしても(合理的理由)、手続きの不備や重すぎる処分であれば社会的相当性が欠けるとされる場合があります。

 

 手続については、懲罰委員会を開催して、労働者本人に弁明の機会を与えましょう。処分の選択においては、処分に見合う企業秩序違反があったかが問題となるので、労働者の平素の勤務態度・業績、不正行為の期間や頻度、会社の損害の程度、利得金の使途などの事情に応じて、これまでの会社での懲戒処分との均衡も加味したうえで、適切な重さの懲戒処分を検討しなけれなりません。

 

4 損害賠償請求については、調査において、労働者の行為によって会社にどれだけの損害が発生したのかを明確にする必要があります。裁判外で請求する場合でも、裁判で訴訟上の請求をする場合にも、客観的根拠を示せることが重要です。

 

 労働者にも事実を示して納得させ、その上で被害回復の有無が懲戒の判断や刑事告訴を行うか否かの判断に影響することを伝えて支払いの合意を目指しましょう。労働者に同意させ支払わせる場合には、金額によっては一度に支払うことが困難な場合もあるので、分割払いの念書や債務弁済公正証書によって支払いを担保しましょう。

 

 求償と債務不履行の損害賠償請求については、判例法理により使用者から労働者への請求額が制限されることがあります。請求できる範囲は「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」となります(茨石事件・最判昭51.7.8・判時827-52)。

 

 その判断においては、①労働者の帰責性(故意または過失の有無・程度)、②労働者の地位・職務内容・労働条件、③損害発生に対する使用者の寄与度(指示内容の適否、保険加入による事故予防、リスク分散の有無等)が基準となるので、これらの事実を基礎づける資料を準備しましょう。

 

5 刑事告訴については、会社に行うかどうかの選択が委ねられます。かつては会社内の不正は内部で解決するという風潮がありましたが、不正は公に処罰すべきという価値観も広まっています。また、現在はSNSの普及などで会社の秘密の維持が難しくなっている状況です。

 

 したがって、秘密にし続けることは難しいことを前提に、風評や他の社員、株主などのステークホルダーへの影響を考慮したうえで、適切な対応を検討しましょう。

 

6 本件ではどうすべきでしょうか。冒頭の事例で、Yについて、リベート受領の疑いが生じたのならば、上記2記載のように帳簿等の調査から水増し請求の額を特定し、労働者本人や関係者からのヒアリングによる事実関係の調査を行います。

 

 リベート受領が明らかになれば、上記2記載の点に留意して、懲戒処分、損害賠償、刑事告訴の手段を採るかを検討します。