正社員同等の賃金を要求するパートタイム社員への対応
Q X社では、正社員とは別にパート従業員、正社員と同一の業務に従事する有期の臨時社員を雇用している。当該臨時社員の給与は正社員と比べて低額となっているところ、パート従業員Aと臨時社員Bが同一労働同一賃金を主張して、正社員賃金と自己の賃金との差額の支払いを請求してきた(損害賠償請求)。X社はどのような対応をすべきか。
A 1 パートタイム労働者の賃金については、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」に、有期雇用労働者の賃金については労働契約法20条に規定が置かれています。
2 パートタイム労働法では、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に対しては賃金を含む待遇の差別的取扱いを禁止しています(8条1項)。「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当しないパートタイム従業員については、通常の労働者との均等待遇を行うことについて努力義務が規定されています(9条1項)。
9条1項はあくまでも努力義務なので、原則としてこれを根拠に損害賠償請求することは困難です。もっとも、例外として賃金格差が公序良俗に反すると評価された場合には損害賠償請求が認められる場合があります(参考裁判例:丸子警報器事件・長野地上田支判平8.3.15・労判690-32)。
「通常の労働者と同視すべき」パート社員といえるには、①職務内容が当該事務所に雇用されている通常の労働者と同一であること、、②人材活用の仕組み、運用等が当該事務所に雇用されている通常の労働者と同一であることの2つの要件を満たす必要があります。
①については、正社員とパートタイム社員の職種、従事している業務のうちの中核的業務、責任の程度を比較します(厚生労働省平成24年8月「パートタイム労働法の概要」1頁参照)。②については、転勤の有無、転勤の範囲、職務内容・配置の変更の有無、職務内容・配置の変更の範囲を比較します(厚生労働省「パートタイム労働法のあらまし」12~14頁参照)。
3 労働契約法20条では、有期契約社員と無期契約社員の間の労働条件が職務の内容・責任の程度、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、有期契約であることを考慮して不合理なものであってはならないとされています。そして。この規定は有期契約のパートタイム社員にも適用されるため、パートタイム労働法8条1項の「通常の労働者と同視すべき」パートタイム社員に該当しない場合であっても労働契約法に違反する場合があるので注意が必要です。
4 具体的な対応としては、まずはパートタイム労働法、労働契約法20条に違反しないように、パートタイム社員、有期社員の契約内容を上記の判断基準に従って分析しましょう。
法律に違反しない場合には、社員からの請求が何に対する不満に起因するものかを検討する必要があります。職務に対する責任や権限や人材活用の違いから、一定程度賃金に差が出るのは合理的なので、賃金に差があることが直ちに違法となる可能性は大きくありません。もっとも、均等待遇は社会の要請となってきており、注目もされているので、社員の不満を分析して事案に応じた対応を検討する必要があります。
また、パートタイム社員、有期雇用社員からの負担を軽減するため、正社員とパートタイム社員の職務の内容・責任、会社で果たすべき役割を明確にする必要があります。社員への説明や業務内容把握のためのヒアリングを通じて、社員の誤解を解き、不満を和らげていきましょう。
5 本件ではどうすべきでしょうか。まずは、パート従業員Aと臨時社員Bが「通常の労働者と同視すべき」(パートタイム労働法8条1項)といえるかどうかを検討します。「通常の労働者と同視すべき」か否かは、①職務内容が当該事務所に雇用されている通常の労働者と同一であること、②人材活用の仕組み、運用等が当該事務所に雇用されている通常の労働者と同一であることの2つの要件を満たす必要があります。A、Bが「通常の労働者と同視すべき」短時間労働者に当たる場合には「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当しないパートタイム従業員については、通常の労働者との均等待遇を行うことについて努力義務が規定されているため(9条1項)、原則としてこれを根拠に損害賠償請求することは困難とはいえますが、例外として賃金格差が公序良俗に反すると評価された場合には損害賠償請求が認められる場合があります(参考裁判例:丸子警報器事件・長野地上田支判平8.3.15・労判690-32)。
次に、「通常の労働者と同視すべき」(パートタイム労働法8条1項)に当たらないとしても、労働契約法20条では、有期契約社員と無期契約社員の間の労働条件が職務の内容・責任の程度、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、有期契約であることを考慮して不合理なものであってはならないとされているので、こちらを検討します。不合理となる場合には、賃金制度の是正や合理的な賃金とこれまでの支払い分との差額を支払う必要があります。
また、A、Bに対しては不満の聞き取りをしたうえで、正社員との待遇の差が生じる合理的な理由を説明する等、社員の不満を分析して事案に応じた対応を検討する必要があります。
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