試用期間中の者の本採用拒否

Q X社では新規採用と中途採用のいずれにも試用期間を定めており、これまで本採用を拒否したことはない。
 しかし、今回、新規採用者Aと中途採用者Bについて、問題があり本採用をしないつもりである。Aは採用時に慎重な性格と評価していたが、試用期間中の勤務状況からコミュニケーション能力が著しく欠如していると評価された。
 Bは経理部長の要職に就けるつもりで採用したが、全く経理の素養がなく、当該要職を行う能力に欠ける。X社が本採用を拒否するときどのような点に留意すべきか。 

A 1 試用期間の法的性質は一般に「解約権留保付労働契約」と解されています。試用期間経過後の本採用拒否は、会社による解約権の行使であり解雇と同視されます。

 したがって、新規採用者であろうと中途採用者であろうと、本採用拒否には試用期間の目的・趣旨(能力・資質の見極めによる①本採用の決定、又は②配属先の決定)に照らして、合理的な理由と社会通念上の相当性が必要となります。

 

 合理的な理由と社会通念上の相当性の有無は個別的な事案ごとに判断されます。具体的には、業種や会社ごとの特性、求める社員の職種や水準などから総合的に判断されます。

 

 専門性が期待されて採用された中途採用者については、その点も考慮されます。裁判例では、事業開発部長としての適格性(オープンタイドジャパン事件)、人事本部長としての適格性、証券営業職としての適格性(フォード自動車・日本事件)、病院の常勤事務職としての適格性(医療法人財団健和会事件)が具体的に検証されています。

 

 他方、新卒社員については、専門性が期待されていない場合が多いと考えられるので、専門的な能力の有無は重要でなくなります。この場合には、正社員として本採用しないためには、正社員としての基礎的な能力すらないことが必要となり、会社の本採用拒否はハードルが高くなります。

 

 また、共通して注意すべきこととして、本採用拒否の理由や拒否の時期があります。採用の時点で気付くべきことを理由とする解雇は、試用期間に基づく本採用拒否とはいえず、無効となる可能性があります。試用期間経過後に本採用に至ったと評価される事案で、勤務成績不良を理由に解雇する場合には試用期間中に本採用に足りる能力はあると評価済みであるということから、正規従業員になってからの勤務成績が適格性判断をした際には予想しえなかった程低劣である場合でなければ、使用者は勤務成績不良を理由に解雇できないとされました(ブラザー工業事件・名古屋地判昭59.3.23・労判439-64)。また、試用期間の延長後には延長前の事情だけでは本採用きょひができないとした事案があります(大阪読売新聞試用者解雇事件・大阪高判昭45.7.10・労判112-35)。

 

2 具体的な対応として、採用段階では試用期間であること及び試用期間中に適格性がないと判断された場合には解雇することを契約書や就業規則等に明確に定めておく必要があります。

 

 また、採用時に容易に知り得る事情を見逃しては、その事情から本採用拒否をすることが難しくなります。したがって、採用時には、新卒採用でも中途採用でも求める人材の能力に応じた適切な調査をしましょう。そして、特に求める専門性が高い場合にはその旨を明示しておきましょう。

 

 試用期間中には、特に新規採用者の場合は研修や職種の見極めが適切となるように常に検証します。本採用拒否の効力の評価では、試用期間中の労働者の改善を会社が適切に評価しているかも考慮されるので(参照:医療法人財団健和会事件・東京地判平成21年.10.15・労判999-54)、目標の設定や達成度の評価、本人へのフィードバックなど適切なプロセスを踏むようにしましょう。

 

 新規採用者の適格性判断は、「正社員」レベルという抽象的で難しいものなので、研修での課題や評価、現場に配属した後の業務実績や評価について目標達成へのプロセスを意識した適切な評価を残しておく必要があります。本件Aのような社員については、会社として社会人経験のない者を採用している以上、会社側の教育研修、社員の個性に応じた配置が行われたがという適格性判断の過程が重要となります。研修が十分であり、配置の決定の過程が適切であったことを示し、Aの能力が問題であったことを示す必要があります。

 

 中途採用者で特に専門性への期待が高い場合には、会社として求める水準を明確にし、低い水準で容認したと評価されないように、水準を具体化して、求める水準に達しない点は指摘し、記録に残しましょう。本件Bの場合には、採用時又は試用期間中に経理に関してX社が求める水準が示されこと、及びそのような水準を求める指導が行われたことを示す必要があります。

 

3 本件ではどうすべきでしょうか。会社としてはA、Bに関する事情が、採用時に容易に知り得る事情ではなかったと客観的資料から基礎づけなければなりません。

 

 本件Aのような社員については、会社として社会人経験のない者を採用している以上、会社側の教育研修、社員の個性に応じた配置が行われたがという適格性判断の過程が重要となります。研修が十分であり、配置の決定の過程が適切であったことを示し、Aの能力が問題であったことを示す必要があります。

 

 本件Bの場合には、採用時又は試用期間中に経理に関してX社が求める水準が示されたこと、及びそのような水準を求める指導が行われたことを示す必要があります。