残業しない社員への対応

Q X社は製造業を営む会社である。X社の就業規則には、就業時間は8時から17時(労働時間8時間、休憩1時間)と定めている。納期が迫っている場合などの業務上の必要がある場合に、従業員に所定労働時間外の残業を命じたい。
 X社が従業員に残業を命じるにはどうするべきか。また、残業命令に応じない従業員への対応はどうするべきか。

A 1 労働時間については休憩時間を除き1日8時間、1週間で40時間を超えてはならないとされています(労基法32条)。この違反に対しては罰則が設けられています(労基法119条1号)。

 

 法定の労働時間を超えて労働させる場合には、まず、労使協定を締結する必要があります(三六協定、労基法36条)。三六協定の締結と行政官庁への届出をすることで、上記の罰則につき刑事免責の効果が生じます。

 三六協定は、使用者が「労働者の過半数で組織する労働組合」と、そのような組合がない場合は「労働者の過半数を代表する者」と書面で協定を締結することで成立します。

 

 三六協定の内容としては、「時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数並びに1日及び1日を超える一定の期間についての延長することのできる時間又は労働させことができる休日」を定める必要があります(労基規16条)。

 

 使用者として注意すべきなのは、単に「業務上の都合により残業を命じることができる」と定めるのみでは上記の「(時間外・休日の)労働をさせる必要のある具体的事由」を定めたことにはならないということです。もっとも、「納期を遵守しないと重大な支障が生じる場合」、「設備機械の移動、設置、修理のため作業を急ぐ場合」などの具体的な定めをしたうえで、付加的に「生産目標達成のため、やむを得ない場合」、「業務の内容によりやむを得ない場合」といった概括的、網羅的な規定をすることは認められています(日立製作所残業拒否事件・最判平3.11.28・労判594-7)。

 

2 次に、使用者が残業を命じられることが契約の内容になっていなくてはなりません。なぜなら、三六協定は刑事免責を定めるものであり、労働契約上の権利を生じさせるものではないからです。

 

 使用者の残業を命じる権利を契約の内容とするには、就業規則や労働協約に「使用者は、三六協定の範囲内で①、②、③・・・の事由があれば、残業を命じることができる」等の規定を設けることが考えられます。

 ただし、このような規定を設けても、その内容が合理的でなければ、契約としての拘束力を有しないため注意が必要です。

 

3 これまで述べてきたように、三六協定を締結し、就業規則等で残業命令について定め、その内容が合理的であると認められる場合には使用者は残業命令を行えます。労働者がこの残業命令を拒否した場合には、誠実労働義務違反となります。就業規則上の懲戒事由に業務命令・指示違反が定めてあるならば、懲戒処分をすることが可能となります。

 

 具体的な対応としては、一般的な業務命令違反の対応と同様になります。まずは、注意・指導により改善を図りつつ、労働者の残業拒否の真意を確認し、適切な解決策を検討することが大切です。指導・注意は証拠を残すという意味で、口頭でなく書面で行いましょう。

 

 注意・指導で改善が見られない場合は、懲戒処分を検討しましょう。懲戒処分においても、まずは軽いけん責等の処分で労働者の改善を図りましょう。裁判例では、8回の残業命令に対して7回拒否した労働者に対し、軽い懲戒処分を経ずに懲戒解雇をした事案において、懲戒解雇を是認できないと判断されています(与野市社会福祉協議会懲戒解雇事件・浦和地判平10.10.2・判タ1008-145)。

 

 軽い懲戒処分を経ても、改善が見られず、残業拒否を繰り返すようであれば、重い懲戒処分や諭旨解雇、懲戒解雇を検討しましょう。

 

4 本件ではどうすべきでしょうか。X社が三六協定を締結し、就業規則等で残業命令について定めているとして、納期が迫っているという事情での命令は可能かが問題となります。納期に関しては商慣習上重要であるので、残業しなければ間に合わないという具体的な事実があるなら業務上合理的であると認められます。合理性が認められる場合には、残業命令に応じない社員に対しては、まず指導・注意、そして軽い懲戒処分と段階的に改善を求める措置を行っていきます。