普通解雇と懲戒解雇の選択
Q 勤務態度が不良で、業務命令にも反抗的な態度を示し、顧客とも度々問題を起こしている問題社員について、懲戒解雇をすることはできるか。普通解雇する場合との違いはどこにあるのか。
A 1 普通解雇は債務不履行状態にある社員に対して、会社が一方的に労働契約を終了させることです。懲戒解雇は重大な企業秩序違反行為をした社員に対して制裁罰として会社が一方的に労働契約を終了させることをいいます。懲戒解雇は懲戒処分としての性格と解雇としての性格を併せ持っているといえます。
2 普通解雇と懲戒解雇の違いについては、①就業規則上の規定の要否、②有効性判断の方法、③解雇の手続き、④効果などが問題となります。
①について、懲戒解雇は懲戒処分の根拠が社員の事前の同意にあるため就業規則に懲戒事由及び懲戒処分の種類を明定することが必要です(フジ興産事件・最判平15.10.10・労判861-5)。他方、普通解雇の場合には債務不履行を根拠とするので、就業規則の根拠は不要と考えられます。ただし、常時10人以上の社員を使用する場合には解雇事由を定めた就業規則の作成と届出が必要とされており(労基法89条)、実際には就業規則で普通解雇について定めることが一般的です。したがって、①については懲戒解雇と普通解雇の差はあまりありません。
②については、懲戒解雇については懲戒権濫用法理(労契法15条)が、普通解雇については解雇権濫用法理(労契法16条)が問題となります。どちらも、「社会通念上の相当性」を要件としていますが、その検討においては各解雇の性質に応じて検討の方向性が異なってきます。
特に職場規律への違反を解雇事由とする場合の区別が問題となります。懲戒権濫用法理においては、企業法秩序と平等性がポイントになります。行為の内容や態様から企業秩序に与える影響を考慮した上で、懲戒処分が企業秩序に回復に必要十分な程度か、これまでの同社での懲戒処分との均衡がとれたものかということを検討します。
そして、懲戒解雇では普通解雇より大きな不利益を労働者に与えることから規律違反の程度は、制裁として労働関係から排除することを正当化するほどの程度に達していることが求められています。解雇権濫用法理(普通解雇)では、規律違反行為の検討をする場合には、改善可能性がポイントとなります。そこでは、規律違反の態様、違反の程度、違反の回数、改善の余地の有無だけでなく社員に改善の機会を与えたかどうかが判断要素となります。
③については、解雇手続きについて労働組合との労働協約に手続きについて規定している場合には、これを遵守する必要があります。また、懲戒解雇も解雇であるため普通解雇と同じく解雇予告制度の誓約を受けます。懲戒解雇であれば、即時解雇ができるというわけではありません。
④については、退職金、失業手当、再就職の面で違いが問題となります。退職金の減額・不支給については、懲戒解雇であれ普通解雇であれ、契約上の根拠があり、かつ「永年の勤続に功を抹消」してしまうほどの信義に反する行為があった場合に限定されます。懲戒解雇については、労働者に企業秩序違反があることが前提となりますが、当然に退職金の不支給・減額がみとめられるわけではなく、実質的にそれまでの功労を失わせるほどの悪質性があるかを検討しなくてはないりません。
失業手当については、雇用保険の適用事業主はいわゆる離職票を発行せねばならず、懲戒解雇の場合には「懲戒解雇」または「重責解雇」と記載します。この場合には退職者は一般受給資格者にカテゴライズされ、失業手当の給付を受けるまで3か月の給付制限期間があります(雇用保険法33条)。普通解雇の場合は特定受給者にカテゴライズされ、この制限期間はありません。再就職に関しては、法的な問題ではなく実際上の問題として、退職事由が懲戒解雇となると再就職は難しくなります。
3 具体的な手続きとしては、懲戒解雇をするにせよ普通解雇をするにせよ、まずは事実の調査と解雇事由の吟味をします。業務指示の態様、これに対する問題社員の対応、業務への支障などの事情を十分に調査して、解雇事由のどの事由に該当するかを吟味します。
証拠化のために、業務命令を行った上司に報告書を作成させ、また問題社員への注意は書面で行うようにします。懲戒解雇の場合には事後に懲戒事由を付け加えることが原則としてできないため、より慎重に判断することが必要です(山口観光事件・最判平8..9.26・労判708-31)。
懲戒処分の選択においては、非違行為の悪質性が解雇するまでに至らない場合にはより軽い処分を行います。軽い懲戒処分でも会社が企業秩序の回復を試みたこことなり、軽い懲戒処分を経ても労働者に改善が見られない場合には是正の余地がないとして懲戒解雇が相当とされる事情となります。
懲戒解雇の通知においては、懲戒解雇として認められないおそれがある場合には、予備的に普通解雇とする旨の意思表示をしておくことが望ましいです。予備的な意思表示をしていない場合でも、懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれるとした裁判例もあれば(日本経済新聞事件・東京地判昭45.6.23・労民21-3-980、セコム損害保険事件・東京地判平19.9.14・労判947-35)、これに反する裁判例もあるので(三菱重工相模原制作所事件・東京地決昭62.7.31・労判501-6)、明確に予備的な意思表示をするのが無難といえます。
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