厳しい叱責をする社員への対応
Q 部下の社員のミスに対して指導と称して厳しい叱責を行う管理職の社員がいる。社員からパワハラでないかとの相談があるが、パワハラか否かの判断はどうすべきか。また、パワハラへの対応はどのように行えばよいか。
A 1 職場におけるパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」と政府は定義しています(厚生労働省平成24年3月15日「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」)。
具体的な行為としては、①暴行・傷害、②脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言、③隔離・仲間外し・無視、④不要・遂行不能なことの強制、仕事の妨害、⑤合理性なく、経験・能力に比して程度の低い仕事を与えること、仕事を全く与えないこと、⑥私的なことに過度に立ち入ることが挙げられています。特に④から⑥について、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があるので、慎重に判断する必要があります。
2 会社の責任としては、会社は職場環境配慮義務(安全配慮義務)を負っていることから、裁判例も会社が「職場内での人権侵害を生じないように配慮する義務(パワーハラスメント防止義務)としての安全配慮義務」があることを認めています(日本土建事件・津地判平21.2.19・労判982-66)。
会社がパワハラの防止策や、パワハラが明らかとなった場合に懲戒権行使などの適切な対応を取らなければ、当該義務の違反となり、被害者に対して責任を負うことになります(下記「パワハラ防止策」参照)。
もっとも、会社は重すぎる処分をした場合には行為者に対しても責任を負うことになるので会社は両側に配慮を尽くすべき難しい立場にあるといえます。
パワハラの調査に際しては、セクハラ同様に被害者のプライバシーに配慮すること、またパワハラの申告について不利益取り扱いをしないことが求められます。
懲戒処分を行う場合には、会社は処分に先立ち行為者に弁明の機会を与えた上で、就業規則に従って懲戒を行う必要があります。
3 パワハラ該当性の判断
パワハラも、セクハラ同様、被害者が主観的にパワハラだと感じたからといって違法なパワハラと認められるものではありません。様々な事情からの総合判断となります。
裁判例では、パワハラが不法行為(民法709条)となるのは「パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上・・・通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為」でる場合とされています(ザ・ウィンザー・ホテルズ・インターナショナル事件・東京地判平成24.3.9・労判1050-68)。
パワハラはセクハラと違って性的な言動という分かり易いメルクマールがないため、「正当な職務行為」か否かの判断が特に重要となります。
パワハラに該当するような厳しい叱責か否かについては、裁判例では「他人に心理的負担を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法というべきであり、・・・例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法性が阻却される場合がある」とされています(海上自衛隊事件・福岡高判平20.8.25・判時2032-52)。
そして、心理的負担を過度に蓄積させるようなものかは、「これを受ける者について平均的な心理的体制を有する者を基準として客観的に判断されるべき」(同判例)とされています。判断では、叱責等の行為にいたった事情に対して、当該行為で生じる負担の程度が合理性・相当性が認められるものか検討されます(参照:前田道路事件・高松高判平21.4.23・労判990-134)。
4 本件ではどうすべきでしょうか。上記3を参照し、パワハラの該当性を判断するべきでしょう。
上司による叱責がパワハラに該当すると判断された場合には、会社は労働者から職場環境配慮義務違反を問われる可能性があります。この場合には、会社としては下記のような防止策を講ずる改善を行い、労働者に再発防止の方向性を示すなどの対応により、上司と部下の争いから会社と労働者の争いへと発展させないようにすることも考えられます。
(パワハラ防止対応策)
パワハラ防止対応策 平成〇年〇月〇日 当該社員はパワハラがあってはならないということを自覚し、パワハラが発生しないようにしなければなりません。同僚同士のいじめもパワハラに該当する可能性がありますので、ご注意ください。
第1 禁止事項
第2 連絡の徹底
第3 パワハラ防止委員会による調査
第4 懲戒処分
第5 相談窓口 以上 |
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