備品を私的利用する社員への対応
Q X社は販売業を営んでいるところ、社員・従業員による備品の私的利用、商品の無断での持ち帰りが疑われる事例が多数報告されている。このような不正行為に対する対策や、問題社員が特定できた場合の対応はどうすべきか。
A 1 会社の備品を一時的に私的に使用することは、軽微なものであれば使用窃盗となり、刑事上の犯罪とはなりません。しかし、自動車などの高価なものの使用、商品の持ち帰りは窃盗罪、横領罪に当たります。このような犯罪に当たる不正な行為については、会社内部でも規制し、対策や懲戒の制度を整備することが一般的です。
2 まずは、予防的対策として、啓蒙活動を行いましょう。軽微な備品の一時的使用は犯罪には当たらず、従業員も罪の意識なく行っていることがあります。犯罪でなくても、会社にとって迷惑な不正行為ですので、会社として許していないことを従業員に明確に示しましょう。そして、ルールに違反した場合にどのような処分がなされるかを通知することも予防には効果的です。
3 対策の整備としては、特に多数の商品や現金を扱う業種では、従業員への所持品検査や事実確認を制度化することが一般的です。
所持品検査については、従業員のプライバシー等の人権に関わる事柄であるので、判例上、許されるための要件が示されています。具体的には、所持品検査が許されるためには、①検査の合理的理由、②一般的に妥当な方法と程度、③制度として画一的に実施されること、④就業規則その他、明示の根拠に基づくことが最低限必要となります(西日本鉄道事件・最判昭43.8.2・労判74-51)。
裁判所は所持品検査については一般的な必要性を認める傾向にありますが、検査が通勤用自家用車や身体にまで及んだ事案では、上記要件該当性を否定する判断をしています(芸陽バス事件・広島地判昭47.4.18・労判152-18、サンデン交通事件・山口地下関支判昭54.10.8・労判330-99、日立物流事件・浦和地判平3.11.22・労判624-78)。
これらの裁判例からは、所持品検査の方法の選択においては、検査の実効性の確保と従業員のプライバシー等への配慮を調和させる必要があるということです。もっとも、業務の特殊性、備品の性質から、特段の事情があれば厳しい検査をすることも許されると考えられます。その場合は、その必要性をちゃんと説明できるようにしておきましょう。
事実確認を行うについては、就業規則などで規程を設けることまでは必要なく、従業員が自発的に協力に応じる場合には特に問題はありません。問題は自発的に協力に応じない従業員に協力を命じることができるかです。
この点について判例は、①管理監督者など、調査に協力することが職務内容になっている場合、②調査対象の違反行為の性質・内容、労働者が違反行為を見聞したことと職務執行の関連性、より適切な調査方法の有無等の諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められる場合のいずれかの場合には、労働者に調査への協力義務が生じるとしています(富士重工業事件・最判昭52.12.13・労判287-7)。
4 私的利用、持ち出しが疑われる場合、明らかになった場合でも、その程度が軽微であれば、まずは口頭、書面での警告を行いましょう。
警告での問題解決が期待できない場合には、懲戒処分を検討します。会社の金品や備品、商品の不正な領得に対して懲戒処分を行うには、あらかじめ就業規則に懲戒事由として定めておく必要があります。実際に懲戒処分を行う場合の手続としては、懲罰委員会を開催して、処分内容を検討することになります。
懲戒処分の軽重は、対象行為に応じた妥当性・相当性が求められ、不相当な処分であれば効力が否定されることもあるため、慎重に検討しましょう。
5 犯罪に当たる行為に対しては、懲戒処分を下したうえで、さらに刑事告訴を求めることもできます。刑事手続に入れば、捜査などの公権力による強制的な手続きにより、会社の独自調査では不可能な事実の解明が期待できます。損害額の多寡や行為態様の悪質性などを考慮したうえで、刑事告訴すべきかどうか検討しましょう。
6 では、本件ではどうすべきでしょうか。私的利用や持ち帰りが疑われる場合には、上記2記載の通りに整備された、所持品検査・事実確認の制度により、調査を行いましょう。
備品・商品の私的利用・持ち帰りが明らかになれば、口頭、書面での警告を経たうえで懲戒処分・刑事告訴を行うべきかを検討していきます。
(就業規則の例)
第〇条 |
(懲戒規程の例)
第〇条 次に掲げるものは懲戒解雇とする。 ・会社の金品を不正に持ち出したもの |
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