3. 裁量労働制
(1) 裁量労働制とは
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裁量労働制とは、業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、実際の労働時間数とはかかわりなく、所定の労働時間数を働いたものとみなす制度です。
裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。
種類
専門業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制
対象業務
業務遂行の手段や時間配分等に関して使用者が具体的な指示をしない19の業務
事業の運営の企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務遂行の手段や時間配分に関して使用者が具体的な指示をしない業務
手続
労使協定の締結
労使委員会の委員の5分の4以上の多数による決議
届出
労働基準監督署長へ労使協定の届出
労働基準監督署長へ労使委員会の決議の届出
定期報告
不要
必要
労働者の個別同意
不要
必要
需要が多い業種
情報通信業
情報通信業、金融業、保険業
(2) 専門業務型裁量労働制
ア 適用例
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例えば、使用者が具体的な指示を出すことが難しいシステムエンジニアの業務に適用すれば、労働者が自己決定により、ある日に10時間働き、ある週に42時間働いたとしても、1日に8時間、週に40時間働いたものとみなされるため、時間外労働は発生しません(週休2日制を前提としています)。
イ 19の対象業務
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19の対象業務(労基則24の2の2、平9労働告7)は以下の通りです。
① 新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
② 情報処理システムの分析または設計の業務
③ 記事の取材もしくは編集の業務または放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務
④ デザイナーの業務
⑤ プロデューサーまたはディレクターの業務
⑥ コピーライターの業務
⑦ システムコンサルタントの業務
⑧ インテリアコーディネーターの業務
⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩ 証券アナリストの業務
⑪ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑫ 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
⑬ 公認会計士の業務
⑭ 弁護士の業務
⑮ 建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務
⑯ 不動産鑑定士の業務
⑰ 弁理士の業務
⑱ 税理士の業務
⑲ 中小企業診断士の業務
ウ 導入要件
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専門業務型裁量労働制を導入するための要件は、
① 労使協定により、
② 対象業務、みなし労働時間、業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し労働者の労働時間の状況に応じた健康・福祉確保措置および苦情処理に関する措置を協定で定めることにより講ずること(労走者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること(労基則24の2の2③))、協定の有効期限を定め、
③ 使用者が当該労使協定を労働基準監督署長に届け出ることです。
なお、労使協定には、その協定を定めるところによって労働させても労働基準法違反にならないという免罰的効果しかなく、労働契約上の義務を発生させるためには就業規則等の根拠が必要になります。
エ 労使協定例
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(対象従業員)
第1条 本協定は、本社附属事務処理センターにおいて情報処理システムの分析または設計の業務に従事する従業員(以下「対象従業員」という)に適用する。
(専門業務型裁量労働制の原則)
第2条 対象従業員に対しては、会社は業務遂行の手段および時間配分の決定等につき具体的な指示をしないものとする。
(みなし労働時間)
第3条 対象従業員が、所定労働日に勤務した場合は、就業規則第〇条に定める就業時間にかかわらず、1日8時間労働したものとみなす。
(対象従業員の健康と福祉の確保)
第4条 対象従業員の健康と福祉を確保するために、次の措置を講ずるものとする。
(1)対象従業員の健康状態を把握するために次の措置を実施する。
ア 所属長は、入退室時のIDカードの記録により、対象従業員の在社時間を把握する。
イ 対象従業員は、2か月に1回、自己の健康状態について所定の「自己診断カード」に記入の上、所属長に提出する。
ウ 所属長は、イの自己診断カードを受領後、速やかに、対象従業員ごとに健康状態等についてヒアリングを行う。
(2)使用者は、(1)の結果をとりまとめ、産業医に提出するとともに、産業医が必要と認めるときには、次の措置を実施する。
ア 定期健康診断とは別に、特別健康診断を実施する。
イ 特別休暇を付与する。
(3)精神・身体両面の健康についての相談室を○○に設置する。
(対象従業員の苦情の処理)
第5条 対象従業員から苦情等があった場合には、次の手続に従い、対応するものとする。
(1)裁量労働相談室を次のとおり開設する。
ア 場 所 〇〇〇〇
イ 開設日時 毎週金曜日12時~13時と17時~19時
ウ 相談員 〇〇〇〇
(2)取り扱う苦情の範囲を次のとおりとする。
ア 裁量労働制の運用に関する全般の事項
イ 対象従業員に適用している評価制度、これに対応する賃金制度等の処遇制度全般
(3)相談者の秘密を厳守し、プライバシーの保護に努めるとともに、必要に応じて実態調査を行い、解決策等を労使に報告する。
(勤務状況等の保存)
第6条 使用者は、対象従業員の勤務状況、対象従業員の健康と福祉確保のために講じた措置、対象従業員からの苦情について講じた措置の記録をこの協定の有効期間の始期から有効期間満了後3年間を経過する時まで保存することとする。
(有効期間)
第7条 この協定の有効期間は、平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日までの〇年間とする。
オ 適用イメージ
(3) 企画業務型裁量労働制
ア 適用例
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例えば、企画部で経営計画を策定する業務に従事する労働者及び人事部で人事計画を策定する業務に従事する労働者に対し、能力を十分発揮しうる環境を提供するため、労使委員会において以下の決議を行い、労働者の個別同意を得て、労働者を対象業務に就かせたときは、労働者が自己の決定によってある日は10時間働き、ある週は42時間働いたとしても、1日8時間、週40時間働いたものとみなされますので(週休二日制を前提とします)、時間外労働は発生しません。
イ 導入要件
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企画業務型裁量労働制を導入するための要件は、
①賃金、労働時間、その他の労働条件に関する事項を調査審議することを目的とする委員会が設置された事業場において、
②当該労使委員の5分の4以上の多数により以下の事由を決議し、
③使用者がその決議を所轄労働基準監督署長に届け出ることです。
労使委員会決議事項
① 対象業務(事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務)
② 対象労働者の範囲(対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者)
③ みなし労働時間
④ 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた健康・福祉確保措置および苦情処理に関する措置を協定で定めるところにより講ずる旨、この点に関し、労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること
⑤ 対象労働者の同意を得なければならないことおよび同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをしてはならないこと
⑥ 決議の有効期間
ウ 労使委員会の決議例
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(対象業務)
第1条 企画業務型裁量労働制を適用する業務の範囲は、次のとおりとする。
(1)企画部で経営計画を策定する業務
(2)人事部で人事計画を策定する業務
(対象労働者)
第2条 企画業務塑裁量労働制を適用する労働者は、前条で定める業務に常態として従事する者のうち、入社して7年目以上でかつ職務の級が主事6級以上である者とする。
(対象労働者の事前の同意)
第3条 対象労働者を対象業務に従事させる前には本人の書面による同意を得なければならないものとする。
(不同意者の取扱い)
第4条 前条の場合に、同意しなかった者に対して、同意しなかったことを理由として、処遇等で、本人に不利益な取扱いをしてはならないものとする。
(みなし労働時間)
第5条 第2条に定める者のうち、第3条に基づき同意を得た者(以下「裁量労働従事者」という)が、所定労働日に勤務した場合には、就業規則第〇条に定める就業時間にかかわらず、1日8時間労働したものとみなす。
(裁量労働従事者の健康と福祉の確保)
第6条 〔省略〕
(裁量労働従事者の苦情の処理)
第7条 〔省略〕
(勤務状況等の保存)
第8条 使用者は、裁量労働従事者の勤務状況、裁量労働従事者の健康と福祉確保のために講じた措置、裁量労働従事者からの苦情について講じた措置、企画業務型裁量労働制を適用することについて裁量労働従事者から得た同意に関する労働者ごとの記録を決議の有効期間の始期から有効期間満了後3年間を経過する時まで保存することとする。
(決議の有効期間)
第9条 本決議の有効期間は、平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日までの3年間とする。