第1 時間外・休日労働の規制

1.労働時間の意味   

(1)労働時間概念の整理

 

労働基準法上の労働時間

労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間(使用者が賃金を支払わなければならない時間)

法定労働時間

法律が規定する上限の労働時間(原則:1日8時間・1週40時間(労基32)

所定労働時間

会社が就業規則等で定める労働時間(始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間)

時間外労働時間

法定労働時間を超える労働時間(割増賃金の支払が必要)

法内超勤時間

所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない労働時間(割増賃金の支払は不要)

 

(2)労働時間の定義・基準

 最高裁判所は、三菱工業長崎造船所事件(最判平12・3・9判時1709・126)において以下のように明確な基準を示しました。

 

① 労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている 時間」をいう。

 

② 労働時間に該当するか否かは、労働契約・就業規則・労働協約等の定め方ではなく、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否か」により客観的に判断される。

 

③ 労働者が業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、所定労働時間外に行うとされていても、特段の事情のない限り使用者の指揮命令下に置かれたものと評価でき、労働基準法上の「労働時間」に該当する。

 

(3)待機時間・仮眠時間

 

 最高裁判所は、大星ビル管理事件(最判平14・2・28判時1783・150)において、ビル管理従事者の仮眠時間が労働時間か否かについて、「仮眠時間中も警報があった時には対応しなければならない」「仮眠時間は実作業のない時間も含め、全体として指揮命令下にある労働時間に該当する」としています。

 

 つまり、待機時間や仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていなければ、実作業に従事していない時間も労働基準法上の労働時間に該当する場合があります。

 

(4)業務とは無関係な時間

 

 労働時間に該当するか否かについての最高裁判所の判例は、「使用者の指揮命令下に置かれているか否か」を基準としています。

 もっとも、使用者の指揮命令下に置かれているように見えても、労働者が使用者の業務とは無関係なことを行っていた時間は「労働時間」でないことは明らかです。そのため、最高裁判所の判例もこの点を否定する趣旨ではないと思われます。

 

 「労働時間」に該当しないとされた例

 

「労働時間」に該当しない時間

「労働時間」に該当しないに該当しない理由

勤務時間

外形的にも実質的にも使用者の指揮命令下に置かれていないため。

いったん集合場所に集まり、そこから現場などの実際に仕事をする場所へ移動するまでの時間

勤務時間の延長であり、使用者の指揮命令下に置かれていないため。

始業時刻前及び終業時刻後の調整時間

交通渋滞の回避や電車時刻までの調整時間等労働者の都合による職場滞留時間であり、使用者から指揮命令された業務とは無関係であるため。

始業前の掃除、湯茶準備時間(使用者が命じたものではなく、労働者の自主的判断で実施する者に限る)

使用者の指揮命令や拘束がなく、自由意思による好意的活動であるため。

更衣時間(所定の場所で着替えることを使用者が命じている場合や、業務の性質上作業服管理も労務管理に含まれる場合などを除く)

労務提供の準備行為であるため。

始業前及び勤務時間の途中に行う体操時間(自由参加の者に限る)

労働者の健康管理は、原則として労働者自身が行う事であり、職場での体操時間は健康保持の機会・方法を提供しているにすぎないため。

社内講座受講時間(自由参加で、希望者を募って実施するものに限る)

労働者の自己啓発のための時間である。

トイレ時間・化粧時間

トイレや化粧は集計時間に済ませておくべきものであり、休憩時間以外に行う場合は、労働者が業務を一時中断して業務を行う場所から離れるので、使用者の指揮命令下に置かれていないため。

喫煙時間(喫煙場所等が設置され、業務を行う場所を離脱して喫煙する場合に限る)

労働者が業務を一時中断して業務を行う場所から離れるので、使用者の指揮命令下に置かれていないため。

休憩時間以外に軽食等を購入し飲食する時間

労働者が業務を一時中断するので、使用者の指揮命令下に置かれていないため。

業務と関係のない私的なこと(ウェブサイト閲覧、家族等との電話等)

労働者が業務を一時中断し、使用者から指揮命令された業務とは無関係の行動をしている時間であるため。

使用者が指示した業務と異なる業務をする時間

使用者から指揮命令された業務とは無関係の行動をしている時間であるため。

度を超した雑談時間

少しの雑談は職場のコミュニケーションの一環であるが、度を超した雑談は、使用者から指揮命令された業務とは無関係であるため。

業務終了後の入浴時間

使用者は、入浴している場所を提供しているにすぎず、入浴するか否かは労働者の事由であるため。

仕事を自宅に持ち帰って行う時間(使用者から個別具体的に特定の業務を自宅でするよう指示された場合を除く)

使用者の指揮命令下に置かれていないため。

 

(5)労働時間該当性に関する行政解釈

以下の①~⑨については「労働時間」に該当するか否かについて行政解釈が示されています。

 

① 手待時間

  貨物取扱いの事業場において、貨物の積込係が、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合や、運転手が2名乗り込んで交替で運転に当たる場合において運転しない者が助手席で休息し、または仮眠しているときであってもそれは「労働」であり、その状態にある時間(これを一般に「手待時間」という)は、労働時間である(昭33・10・11基収6286)。

 

② 昼食休憩時間中の来客当番

  昼食休憩時間中に来客当番をさせれば、その時間は、実際に来客がなくても労働時間である(昭23・4・7基収1196、昭63・3・14基発150、平11・3・31基発168)。

 

③ 研修期間

  以下の要件により実質的にみて出席の強制があるか否かで判断 する。

 ア 出席しないことについての不利益取扱いの有無

イ 教育・研修の内容と業務との関連性の程度

ウ 不参加による本人の業務の支障の有無

   使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にならない(昭26・1・20基収2875、昭63・3・14基発150・婦発47)。

 

④ 小集団活動

  ③の研修期間の解釈例と同じ。

 

⑤ 安全衛生教育

  労働安全衛生法59条および60条の安全衛生教育は、労働者がその業務に従事する場合の労働災害の防止を図るため、事業場の責任において実施されなければならないものであり、安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間とされる(昭47・9・18基発602)。

 

⑥ 安全・衛生委員会

  安全・衛生委員会の会議の開催に要する時間は労働時間と解される(昭47・9・18基発602)。

 

⑦ 健康診断の受診時間

  一般健康診断は、一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではない。

 

  特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、その実施に要する時間は労働時間と解される(昭47・9・18基発602)。

 

⑧ 長距離トラックのフェリー乗船時間

  フェリー乗船時間のうち2時間(フェリー乗船時間が2時間未満の場合には、その時間)については、拘束時間として取り扱い、その他の時間については休憩時間として取り扱う(平元・3・1基発92、平5・3・17基発165、平9・3・11基発143)。

 

⑨ 休日の移動の時間

  出張中の休日はその日に旅行するなどの場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合のほかは、休日労働として取り扱わなくても差支えない(昭23・3・17基発461、昭33・2・13基発90)。

 

2.36(さぶろく)協定の意味

6(さぶろく)協定の意味

(1)36協定の定義・効果

 36協定とは、労働基準法36条に規定されている労使協定です。

 

 労働基準法32条は、「使用者は労働者に1週40時間・1日8時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならない」と規定しています。

 

 ただし、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組織組合)または労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)との間で36協定を締結し、その協定を労働基準監督署に届け出ることによって、36協定の範囲内で法定労働時間を超える残業を命じて働かせることが可能となります。

 

(2)36協定の内容・様式

 36協定では、以下の内容を定めます。

  1. 時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的自由
  2. 時間外又は休日の労働をさせる必要のある業務の種類
  3. 時間外又は休日の労働をさせる必要のある労働者の数
  4. 1日について延長することができる時間
  5. 1日を超える一定期間について延長することができる時間
  6. 有効期間

 

また、「労働させることができる休日」を定めることも可能です。

 

36協定は書面によって締結し、労働基準監督署に提出しなければなりません。

 

 多くの場合、下記様式第9号を用いて作成・提出します。

(3)時間外労働時間の限度に関する基準

36協定により「延長することができる時間」については、厚生労働大臣が以下のような限度時間を定めています(労基36②平10労働告154)。

 

「一般労働者の場合」

期間

限度時間

1週間

15時間

2週間

27時間

4週間

43時間

1か月

45時間

2か月

81時間

3か月

120時間

1年間

360時間

「3か月を超える1年単位の変 形労働時間制の対象者の場合」

期間

限度時間

1週間

14時間

2週間

25時間

4週間

40時間

1か月

42時間

2か月

75時間

3か月

110時間

1年間

320時間

 

  • 「一定期間」が上表に該当しない場合の限度時間は、計算式で求める時間となります。

 

 協定をする使用者及び過半数組織組合又は過半数代表者は、協定の内容が上記基準に適合したものとなるようにしなければならず(労基36③)、行政官庁は、当該基準に関して必要な助言及び指導を行うことができます(労基36④)。

 

3.時間外・休日・深夜労働の割増賃金

(1)時間外労働。休日労働・深夜労働の割増賃金とは

 使用者が労働者に以下の労働をさせた場合、使用者は、通常の賃金額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければなりません(労基37)。

時間外労働

1日又は1週間の法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超える労働

休日労働

法定休日(毎週1日又は4週間に4日)に行う労働

深夜労働

午後10時から午前5時までの間に行う労働

 

(2)割増率

割増率は以下のとおりです。

 

①時間外・休日・深夜労働の割増率

1か月の合計が60時間までの時間外労働

2割5分以上※1(労基37①本文②④、割増賃金令)

午後10時~午前5時までの深夜労働

1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合の60時間を超える時間外労働

5割以上※2(労基37①ただし書)

法定休日労働

3割5分以上(労基37条①本文②、割増賃金令)

 ※1 特別条項付36協定において月45時間を超えて60時間までの時間外労働に係る割増率は、2割5分「以上」ではなく2割5分を「超える」率とするよう努めなければなりません(平21厚労告316による平10労働告154の改正)。

 ※2 中小事業主(資本金の額または出資の総額が3億円(小売業またはサービス業は5,000万円、卸売業は1億円)以下である事業主、及び常時使用する労働者の数が300人(小売業は50人、卸売業またはサービス業は100人)の事業には、当分の間適用されません(労基138)。

 

 ②時間外・休日・深夜労働が重なる場合の割増率

時間外労働と深夜労働

(時間外労働が1か月合計60時間まで)

5割以上

(労基則20①)

時間外労働と深夜労働

(時間外労働が1か月合計60時間を超える)

7割5分以上

(労基則20①)

法定休日労働と深夜労働

6割以上

(労基則20②)

法定休日労働と時間外労働

3割5分以上

(休日労働の規制のみ及ぶ)

 

(3)割増賃金の計算方法

 時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金は、まず1時間当たりの金額を計算し、それに労働時間数を乗じて算出します(労基則19)。

 

 時間給・日給・月給の場合についてそれぞれ算出方法は以下のとおりです。

 

①時間給

 割増賃金の1時間当たりの単価

時間給×(1+割増率)

時間給1,000円の労働者が2時間の時間外労働をした場合の割増賃金の額

1,000円×1.25×2時間=2,500円

 

②日給

 割増賃金の1時間当たりの単価

日給÷1日の所定労働時間数×(1+割増率)

 日給1万円、所定労働時間8時間の労働者が2時間の時間外労働をした場合の割増賃金の額

 1万円÷8時間×1.25×2時間=3,125円

 

③月給

 割増賃金の1時間当たりの単価

月給÷1か月の所定労働時間×(1+割増率)

 ただし、1か月の所定労働時間数は、月によって変動するのが通常であるため、労働基準法施行規則19条1項4号では「月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数」を用いるとしています。

 

 この場合、1か月の平均所定時間外労働時間数

{(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間}÷12か月

 月給30万円、年間休日108日、1日の所定労働時間8時間の労働者が2時間の事案外労働をした場合の割増賃金の額

 [30万円÷{(365日-108日)×8時間÷12時間}]×1.25×2時間=4,377.51…円

(4)除外賃金

 割増賃金額の計算の基礎には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しません(労基37⑤)。これを除外賃金といいます。

 

 家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当等(労基37⑤、労基則21本文・一~三)は、労働の内容や量とは無関係な労働者の個人的事情に基づくため、除外賃金とされています。

 

 なお、除外賃金に該当するか否かは、その名称にかかわらず実質的に判断されます(昭22・9・13発基17)。例えば、家族手当・通勤手当という名称の手当であっても、扶養家族数や実際の通勤費用にかかわらず一律の額が支給される場合、それらは除外賃金には該当せず、割増賃金の計算の基礎となります。

 

(5)臨時に支払割れた賃金

 臨時的・突発的自由に基づいて支払われたもの、および結婚手当等の支給条件はあらかじめ決められているものの支給事由の発生が不確定かつ非常にまれに発生するものが該当します。

 

 労働協約・就業規則等において支給に関する定めがない、労働契約締結時に予定されていないため、労働に対する対価とはいえないことから除外賃金とされています。

 

(6)1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 賞与、1か月を超える期間についての精勤手当・奨励加給・能率手当(労基則8)が該当します。

 

 計算技術上、割増賃金の基礎とすることが困難であるため、除外賃金とされています。

 

 なお、いわゆる年俸制で年俸の一部を賞与として支払っていても、除外賃金に該当せず、割増賃金額の計算の基礎となります。

 

(7)時間外労働の割増賃金の支払が必要な時間

設例に基づき検討します。

 

〈設例1〉 所定労働時間が午前9時~午後5時(昼休憩1時間)の7時間である会社において、ある労働者が午後8時まで残業した場合

 

終業時刻である午後5時を超えて午後8時まで働いているので、所定労働時間の7時間を超過する3時間については残業代を支払う必要があります(後述の就業規則等に「法内超勤分は基本給に含む」との規定がある場合はその限りではありません)。

 

 では、残業代を支払う際に割増賃金を支払う必要があるのはどの範囲でしょうか。

 

割増賃金を支払う必要がある「時間外労働」とは、所定労働時間ではなく法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超過する労働です。

 

よって、所定労働時間を超過しても法定労働時間内(法内超勤)であれば、割増貸金を支払う必要はありません。

 

 本事例の場合では、午後6時までは法定労働時間である8時間を超えないため、午後5時~午後6時の1時間分は割増賃金を支払う必要はありません。

 

 これに対して、法定労働時間を超える午後6時~午後8時の2時間分は、割増賃金を加えた残業代を支払わなければなりません。

 

〈設例2〉 所定労働時間が午前9時~午後5時(昼休憩1時間)の7時間である会社において、ある労働者が定時どおりにタイムカードを打刻しており会社は残業代を支払っていなかったものの、始業前30分の清掃・朝礼が「使用者の指揮 命令下に置かれている」として労働時間に含まれるとされ、また、2時間のサービス残業が発覚した場合

 

 労働時間(使用者の指揮命令下に置かれている時間)は、始業時刻前30分の清掃・朝礼、2時間のサービス残業をあわせて9時間30分です。

 

よって、所定労働時間7時間を超過する2時間30分について残業代を支払う必要があります。

 

 また、労働時間が所定労働時間である7時間を超過しても法定労働時間である8時間までは、時間外労働時間ではなく法内超勤時間であり、割増賃金の支払は不要ですが、法定労働時間を超過する1時間30分については割増貸金を支払う必要があります

 

4.労働時間等に関する規定の適用除外

(1)適用除外の意義

 管理監督者、及び監視・継続的労働の従事者で労働基準監督署長の許可を受けた者は、業務の性質または態様が法定労働時間や週休制を適用するのにふさわしくないため、法定労働時間(労基32)、休憩時間(労基34)、休日(労基35)、時間外及び休日の労働(労基36)、時間外及び休日の割増賃金(労基37①)等の規定は適用されません(労基41)。

 

 したがって、使用者は、管理監督者等の時間外及び休日労働に対して割増賃金を支払う必要はありません。

 

 ただし、労働基準法37条4項は適用除外とならないため、使用者は管理監督者等の深夜労働に対しては、割増賃金を支払わなければなりません(ことぶき事件:最判平21・12・18判時2068・159)。

 

(2)管理監督者とは

 管理監督者(労基41二)とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある物のことをいいます。

 

 ある労働者が管理監督者に該当するか否かは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩および休日に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様および賃金等の待遇を踏まえ、総合的に判断することによって決せられます(昭22・9・13発基17、昭63・3・14基発150)。

 

 厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署は、管理監督者の範囲を広くとらえがちな実務に注意を促すため、下記のパンフレットを作成しています。

 

「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」