1 変形労働時間制とみなし労働時間制
1.労働時間制
(1)変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、一定の期間内で週40時間・1日8時間の労働時間の原則に対して例外を認める制度です。
変形労働時間制は、労働時間の原則(労基32)では労働時間の適切な配分が難しい場合などに、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し、労働時間の効率的配分等を行うことにより労働時間を短縮することを目的として創設されました(昭63・1・1基発1)。
変形労働時間制には、以下の4種類があります。
種類 |
1か月単位 |
1年単位 |
1週間単位 |
フレックス |
特徴 |
1か月以内の期間において労働時間の効率的配分を図る。 |
1か月を超えて1年以内の期間において労働時間の効率的配分を図る。 |
1週間の期間において労働時間の効率的配分を図る。 |
1か月以内の期間において始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる。 |
労使協定 の締結 |
就業規則のみでも導入可能 |
必要 |
必要 |
必要 |
労使協定の労働基準監督署長への届出 |
労使協定を締結した場合には必要 |
必要 |
必要 |
不要 |
所定労働時間の上限 |
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1日10時間・1週52時間 |
1日10時間 |
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需要が多い業種 |
鉱業、製造業、建設業、運輸業 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業(規模30人未満、当該事業以外採用不可) |
情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業 |
「事業場の業務の実態等に応じた労働時間制度の選択方法」
(2)1か月単位の変形労働時間制
ア 適用例
使用者は、労使協定または就業規則等により、1か月以内の一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定の労働時間(40時間)を超えない範囲内において、特定の日または週に法定労働時間を超えて労働させることができます(労基32の2)。
例えば、月末が特に忙しく、月末に時間外労働が多く発生している会社が適用すれば、時間外労働となる時間を発生させることなく、毎月25日以降の平日に1日10時間の労働をさせることができます。
イ 導入の要件
1か月単位の変形労働時間制を導入する要件は、
① 労使協定又は就業規則等において、
②変形期間を1か月以内とし、
③ 変形期間を平均し1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、
④ 変形期間における各日、各週の所定労働時間を特定することです。
なお、労使協定には、その協定を定めるところによって労働させても労働基準法違反にならないという免罰的効果しかなく、労働契約上の義務を発生させるためには就業規則等の根拠が必要になります。
(3)1年単位の変形労働時間制
ア 適用例
使用者は、労使協定により、1か月を超え1年以内の一定期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをしたときは、その定めにより、特定の日または週に法定労働時間を超えて労働させることができます(労基32の4)。
例えば、夏期に特に忙しく、夏期に時間外労働が多く発生している会社が適用すれば、時間外労働となる時間を発生させることなく、夏期に1日9時間の労働をさせることができます。
イ 導入の要件
1年単位の変形労働時間制を導入する要件は、
① 労使協定において、
② 対象期間を、1か月を超え1年以内の期間とし、
③ 対象期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において、
④ 1日10時間、1週52時間、連続労働日数6日を限度とし、
⑤ 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を所轄労働委準監督署長に届け出ることです。
(4)1週間単位の非定型的変形労働時間制
ア 適用例
使用者は、小売業等の事業であって規模30人未満のものについて、労使協定により、1週間の所定労働時間として40時間を超えない定めをしたときは、事前に各日の労働時間を通知することにより、1日について10時間まで労働させることができます(労基32の5)。
例えば、小売業(規模30人未満)を営み、特定週の週末に時間外労働の発生が見込まれる会社が適用すれば、時間外労働となる時間を発生させることなく、特定週の金曜日、土曜日に1日10時間の労働をさせることができます。
イ 導入の要件
1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入するための要件は、
① 小売業、旅館、料理店及び飲食店の事業であって規模30人未満のものについて、
② 労使協定において、
③ 1週間の所定労働時間として40時間以内の時間を定め、
④ 各日の労働時間は1日10時間を限定としいて、
⑤ 前週末までに翌週の各日の労働時間を書面で通知し、
⑥ 当該労使協定書を所轄労働基準監督署長に届け出ることです。