パワハラ防止法と事業者の責務
パワハラ防止法とは、改正労働施策総合推進法の通称です。
パワーハラスメントの防止措置が事業主の義務となったため、この通称で呼ばれています。
パワハラ防止法は、大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月から施行されます。
現段階では、違反したことに対する罰則規定はありません。しかし、パワハラが横行し改善が見られない企業は、企業名が公表されます。
この記事では、
〇パワハラ防止法における、事業者の責務とはなにか
〇どんな対策をとるべきか
〇どんなことに気をつけるべきか
について説明します。
パワハラ防止法における中小企業
そもそも、パワハラ防止法における中小事業とは、どれくらいの規模の事業主を指すのでしょうか。
以下は、厚生労働省が中小企業の目安をまとめたものです。
業種 |
①資本金の額または出資の総額 |
②常時使用する従業員の数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
各業種において、①か②のいずれかを満たす事業主が対象です。
事業主が果たすべき責務
パワハラ防止法においては、事業主が果たすべきいくつかの責務が法律上明確にされました。
また、事業主だけでなく、労働者の側にもパワハラ防止のために協力する義務が明記されています。
以下、パワハラ防止法における事業主と労働者の責務を説明したものです。
(出典:2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されます!)
事業主の責務
〇職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないこと等これに起因する問題(以下「ハラスメント問題」という。)に対する労働者の関心と理解を深めること
〇その雇用する労働者が他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施する等、必要な配慮を行うこと
〇事業主自身(法人の場合はその役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うこと
労働者の責務
〇ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者(※)に対する言動に注意を払うこと。
〇事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
※取引先などの他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます。
パワハラ防止のためにするべき措置
パワハラ防止法では、以下の措置を講じることが義務として定められています。
◆事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
①職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
②行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
◆相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
④相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
◆職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
⑤事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(注1)
⑦事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと(注1)
⑧再発防止に向けた措置を講ずること(注2)
(注1)事実確認ができた場合
(注2)事実確認ができなかった場合も同様
◆そのほか併せて講ずべき措置
⑨相談者・行為者のプライバシー(注3)を保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
⑩相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
(注3) 性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む。
具体的に何をするべきか
では、具体的な対策として何をするべきでしょうか。
厚生労働省は、パワーハラスメント対策マニュアルのなかで、パワハラを予防するための5つの方法と、パワハラを解決するための2つの方法を例に挙げています。
予防するための対策
①トップのメッセージ
・企業のトップが、職場のパワーハラスメントをなくすべきであると明確に示し、社員に通知する。
企業のトップ自らが、パワハラを許さない・見逃さない立場であると通知することで、企業全体にパワハラを認めない風土をつくることができます。
②ルールを決める
・就業規則に関係規定を設ける、労使協定を締結する。
・予防解決についての方針やガイドラインを作成する。
具体的にルールを決めることで、実際にパワハラが起こったときに迅速な対応ができるようになります。
また、定めたルールを周知すれば、従業員にパワハラの重要性を伝えることができ、予防効果が高まります。
③実態を把握する
・従業員アンケートを実施する。
会社の現状を把握することができます。ただし、アンケートをする場合は、従業員が答えやすい形をとる、個人情報を第三者に漏らさないなどの配慮が必要です。
④教育する
・研修を実施する
ハラスメントの定義自体を知らない人が多いです。研修などを実施して、従業員のハラスメントに対する関心を高める必要があります。
また、業務上の指導とハラスメントは線引きが難しいのが実情です。ハラスメントと指導の境界線を知ってもらうことも重要です。
⑤周知する
・組織の方針や取組について周知・啓発を実施する。
せっかく対策をしても、従業員が知らなくては意味がありません。全員に通知して、みんなでパワハラ対策をしていく姿勢が重要です。
解決するための対策
⑥相談や解決の場を設置する
・企業内外に相談窓口を設置する、職場の対応責任者を決める
・外部専門家と連携する
もしトラブルがあったときに相談できる窓口を設置すると、パワハラ被害にあっている従業員の負担を軽減できます。
外部の専門家と連携することで、よりハイレベルな対応をとることができます。相談する側も、社外の第三者に話せるので、情報が漏れる心配がなく安心です。
弊事務所では、中小企業様向けにパワハラ相談窓口設置サービスを行っています。外部への相談窓口設置をお考えの場合は、ぜひご相談ください。
⑦再発防止のための取り組み
・行為者に対する再発防止研修等を行う
パワハラ行為者の中には、自分のどの行為がパワハラに当てはまるのか理解していない方が一定数います。
そのような方は、パワハラを繰り返す傾向にあるのです。
同じ行為者によるパワハラを繰り返さないためにも、研修などの実施は必要になってきます。
これらの対策方法や、基本的な枠組みの構築方法に関しては、厚生労働省が発行する「パワーハラスメント対策導入マニュアル」に記載がありますので、参考にしてみてください。
こちらはダウンロードして、そのままマニュアルとして使うことができます。
気をつけなくてはならないこと
パワハラ防止法では、事業主に相談などをした労働者に対する不利益取り扱いを禁止しています。
労働者がパワハラについて相談をしたり、雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由として、解雇したり降格するなどの不利益な取り扱いをしてはいけません。
また、相談内容を安易に漏らさないことや、相談者に断りなくパワハラをしている相手に事実を確認しないことなども重要です。
これまでパワハラ対策を行ってきた企業の中には、以下のような失敗をしたところがあります。
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1:社内のパワハラ相談窓口に来た人の話が、相談者が所属する部署でうわさになってしまい、話が余計にこじれてしまった。
2:パワハラ相談に来た人の了承を得ず、相談窓口の人間がパワハラ行為者に面談をした。その結果、相談者が通報したのが行為者にばれ、職場における相談者の立場が一層悪くなってしまった。
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パワハラ相談においては、ちょっとした配慮が欠けるだけで話がこじれてしまったり、おおきなトラブルに発展する可能性があります。
対策をする上では様々なパターンを想定しながら、慎重に動かなくてはなりません。
社内で対応するのは難しいと感じた場合は、弁護士事務所など外部の専門家の手を借りるのも一つの方法です。
弊事務所では、弁護士に直接つながる内部通報窓口の設置サービスをご用意しています。
労務問題に明るい弁護士が対応するので、安心して利用いただけます。
また、弊所では、
・ハラスメント診断
(就業規則及びハラスメント規定が、厚生労働省告示の指針に置いて求められる雇用管理上講ずべき措置に適合するか診断致します。)
・ハラスメント相談窓口の設置
(各種ハラスメントに関しては、相談窓口を設置し、従業員に周知することが厚生労働省告示により求められています。
しかし、企業ごとに事情は異なりますので、どのような形で運用するのが最適かは企業によって変化します。
ご相談いただければ、弁護士が貴社に適した相談窓口の運用方法についてご提案いたします。)
といったサービスを行っております。
ご相談は初回無料ですので、どうぞお気軽にご相談ください。