パワハラ6つのパターン別の裁判事例

「パワハラとは?定義と6つのパターン」では、パワハラの定義についてと、メジャーな6つのパターンについてお話しました。

6つのパターンとは、

〇身体的な攻撃

〇精神的な攻撃

〇人間関係からの切り離し

〇過大な要求

〇過小な要求

〇個の侵害

のことを指します。

このパターンの名称を聞いて、イメージがしやすいものもあれば、いまいちどんな行為かわかりづらいものもあります。

この記事では、過去に実際にあった裁判例を6つのパターンに分類して紹介します。

実際の裁判例を見ることで、よりパワハラ事例のイメージが掴みやすくなります。

身体的な攻撃 に分類される裁判例

ヨドバシカメラほか事件 東京地裁平17.10.4判決 労判904号5頁

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登場人物

パワハラを受けた人:Aさん (派遣社員。家電量販店で、通信会社から受託した携帯電話の販売業務に従事していた。)

パワハラをした人:Bさん・Cさん(Aさんの教育担当者 派遣元会社社員)、Dさん(家電量販店の従業員)

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概要

〇Aさんが会話練習をしていた際、教育担当者Bさんが大きな怒鳴り声をあげ、販売促進用のポスターを丸めたもので、Aさんの頭部を30回ほど強く殴打した。その後、クリップボードの表面や側面を使って、Aさんの頭部を20回ほど殴打した。

〇家電量販店の従業員Dさんが、Aさんの商品取り置きに関する問題について激昂し、Aさんの右側から太ももの外側、膝付近を3回強く蹴った。

〇教育担当者Cさんが、AさんのCさんの入店時間に関する虚偽の電話連絡について叱責。左頬を数回殴打、右太ももを膝で蹴る、頭部に対して肘や拳で殴打するなどの暴行を行った。Aさんは退職を決意した。

〇教育担当者Cさんが、Aさんの退職を思いとどまらせようと話し合いを行う。Aさんが全く話に応じないと、怒鳴り声をあげ、Aさんをソファの上に四つん這いにさせ、拳や肘での殴打、足や膝で蹴るなどの暴行を30回以上行った。

〇AさんはCさんの暴行により、骨折し聴力障害となった。また、この暴行を目撃したAさんの母親が重度のうつ病になった。


裁判の結果

実際に暴行を行ったBさん・Cさん・Dさんだけでなく、Aさんの雇用元である派遣会社や、Dさんの派遣先である家電量販店暴行を目撃したのにとめなかった派遣会社従業員などが損害賠償責任を得るとの判決が出ました。


直接暴行を加えた人以外であっても、損害賠償責任を負うことがある
のです。

精神的な攻撃 に分類される裁判例

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登場人物

パワハラを受けた人:Aさん(保険会社のサービスセンターで勤務)

パワハラをした人:上司(Aさんの直属の上司)

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概要

〇Aさんは、上司から「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。」となどと記載された電子メールを受け取った。

〇このメールは、Aさんと職場の同僚に一斉送信された。

〇メールには、「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。」という退社勧告ともとれる表現が含まれていた。

裁判の結果

この件は、一審では「業務指導の一環であり、嫌がらせとは言えず、Aさんの人格を傷つけるものではない。」とされて損害賠償請求が認められませんでした。

というのも、Aさんには、エリア総合職で課長代理という地位にあるにも関わらず、その地位に見合った処理件数に到達できていない背景があったのです。

一審では、上司はAさんを叱咤激励する目的で問題のメールを送信したと判断しました。

しかし、二審では損害賠償請求が認められました。

メールの内容は、退社勧告ともいえる内容であり、指導のつもりであったとしてもその許容範囲を超えていると判断されたのです。ほかの同僚に一斉送信されたことも、問題があったとされています。

このように、上司から部下に送ったメールが、パワハラにあたるとして損害賠償が認められるケースがあります。

人間関係からの切り離し に分類される裁判例

トナミ運輸事件 富山地判平成17.2.23 労判891-12

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登場人物

パワハラを受けた人:Aさん(貨物自動車運送業を営む会社の社員)

パワハラをした人:X社(Aさんが勤める会社。)

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概要

〇AさんはX社に入社後、大手運送会社50社が所属する事業者団体において、闇カルテルが取り決められることを知った。

〇Aさんは、岐阜営業所長及び副社長に問題の解決を訴えたが、X社が動くことはなかった。

〇よって、Aさんは闇カルテルの存在を新聞社に告発し、後日同新聞で闇カルテルの存在が記事になった。Aさんは公正取引委員会に対しても告発を行った。

〇その後、Aさんは東京本部に異動、さらに同年にX社の教育研修所に異動となった。

異動してからは、20数年以上、他の社員と離れた個室に席を配置され、研修生の送迎などの雑務しか与えられなかった。

〇また、Aさんは上記告発をする前後から一切昇格していない。


裁判の結果

裁判所は、X社がAさんを教育研修所に異動させたうえ、他の社員から隔離して、きわめて補助的な雑務をさせていたことや、昇格がなかったことは、内部告発を行ったことに対する報復だと判断しました。

本来、会社の人事権の行使は、ある程度使用者の判断にゆだねられています。しかし、その権利は合理的な目的の範囲内でしか認められていません。合理的な目的なく、不当な人事をすることは、違法です。

過大な要求 に分類される裁判例

損害賠償請求事件 鹿児島地裁平成26年3月12日判決 判例時報2227号77頁

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登場人物

パワハラを受けた人:Aさん(私立中学の教員、精神疾患を有していた。パワハラの影響をうけて自殺した。)

パワハラをした人:校長(Aさんが勤務する中学校の校長)

         指導官(県教育委員会の研修担当者)

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概要

〇Aさんはもともと精神疾患によって休職していた。休み明けであるにも関わらず、校長は本来の業務である音楽科および家庭科に加え、教員免許外科目である国語科を担当させた。

また、他の分の業務量軽減はなかった。

〇業務量の増加により、Aさんはパニック状態になった。嘘をついて救急車を呼ぶなど、通常ではありえない行動をとっており、精神状態の悪化が見てとれた。

〇校長は、Aさんの主治医に病状を確認することもなく、県教育委員会に対してAさんには指導力が不足していると報告した。その結果、Aさんに対して指導力向上特別研修の受講が命じられた。

(なお、この研修は指導力が不足していると思われる教員に対して実施されるものだが、指導力不足の原因が精神疾患である場合は研修受講の対象とならない。)

〇研修受講時、Aさんは担当指導官にたいして、精神安定剤を服用していることや、めまいやじんましんの症状が出ていることを告げた。

〇担当指導官は、Aさんが何らかの精神疾患を有していると気づけたのに、これまでの教員生活を振り返り、自分の課題を発見するという指導を継続した。

さらに、研修日誌に「自分の身上や進退については両親や担当者とも十分に相談してください。」と、退職を促す内容ともとれるコメントを記載した。


裁判の結果

校長らは、Aさんの業務量はほかの教員と比較して過大ではないと主張しました。

しかし、Aさんが精神疾患による休職明け直後であったことや、医師の診断書に業務量の軽減が必要だと記載されていたことから、Aさんのキャパシティが一般教員と異なることは認識できたはずです。

また、業務量を増やした年度において、突発的に年休を取得したり、授業が準備不足だったりというトラブルが頻発しており、精神疾患の悪化を疑ってもおかしくない状況でした。

最終的には、校長や担当指導官の行為は、精神疾患を有するAさんにとって、大きなストレスを与えるものだったと認定されました。また、これらの行為とAさんの自殺との因果関係が認められました。

このように、精神疾患を有すると思われる労働者に対しては、使用者は健康状態を慎重に把握するべきです。

また、健康状態が悪化している場合は、ストレスの要因を取りのぞくなどの、特別な配慮が必要になります。

過小な要求 に分類される裁判例

神奈川中央交通(大和営業所)事件 横浜地裁平11.9.21判決 労判771号32頁

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登場人物

パワハラを受けた人:Aさん(路線バスの運転士として勤務)

パワハラをした人:所長(Aさんが働く会社の営業所所長)

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概要

〇Aさんは路線バスを駐車車両に接触させる事故をおこしていた。

〇所長は、下車勤務として1か月間の除草作業を命じた。さらに、乗車勤務復帰後に、1か月以上の添乗指導(指導運転士がバスに同乗し、指導を行うこと)を命じた。

〇当時は8月の暑い時期であり、炎天下での除草作業は相当過酷であった。

〇Aさんは、営業所所長がこの除草作業と添乗指導を命じたことに対して、慰謝料の支払いを求めた。

裁判の結果

Aさんの要求すべては認められませんでしたが、一部はパワハラであり違法だと認められました。

そもそも、Aさんには事故を起こしたという事実があります。そのため、下車勤務が命じられたこと自体は違法ではありません。

また、添乗指導が命じられたことも、Aさんの運転技術に問題があり、それを矯正する目的であるため、違法ではありません。

しかし、炎天下に過酷な除草作業を命じた点については、Aさんに対して大きな人権侵害があったと認められました。Aさんは、期限を設けず毎日除草作業をするよう命じられており、さらに作業は日の高い時間帯に行われました。熱中症などの体調不良が起こる可能性があることは、一目瞭然だったのです。

この命令は、事故を起こしたAさんに対する懲罰だと言っても過言ではありません。

企業によっては、本来の業務と比べて「過小な」業務を命じなければならないときもあるかと思います。

その際は、「なぜその業務が必要なのか」という目的の正当性をきちんと説明し、従業員が納得できるように配慮しなくてはなりません。

個の侵害 に分類される裁判例

誠昇会北本共済病院事件 さいたま地判平成16年9月24日 労判883号38頁

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登場人物

パワハラを受けた人:Aさん(とある病院で准看護師として勤務する男性。看護師資格を取るために、専門学校に通いながら働いていた。パワハラの影響を受けて自殺。)

パワハラをした人:Bさん(同病院に勤める男性准看護師5人のうち一番上の先輩。男性准看護士間ではBさんの言動が絶対的であった。)

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概要

〇勤務時間終了後も、Bさんたちの遊びに無理やり付き合わされた。Aさんの学校での試験前に朝まで飲み会に付き合わされたこともあった。

〇Bさんの肩もみ、家の掃除、洗車などの雑用をさせられた。

〇Bさんの個人的な用事のための送迎をさせられた。

〇Aさんが交際している女性と勤務時間外に会う約束をしていると、Bさんから虚偽の内容で病院に呼び出された。

〇BさんがAさんの携帯電話を勝手に使用し、Aさんの交際相手にメールを送った

〇職員旅行において、BさんがAさんに一気飲みを強制し、Aさんは急性アルコール中毒となった。

Bさんは後に行われた忘年会で、このことについて「あのとき死んじゃったら良かったんだよ、馬鹿。」「うるせえよ、死ねよ。」などと発言した。


裁判の結果

Aさんの行為は、からかい、悪口、たたく、プライベートを侵害するなどの違法ないじめだったと認められました。

このいじめが、長期間にわたって執拗に行われていたことや、「死ねよ」などの言葉を浴びせられていたことを考えれば、Aさんが自殺するかもしれないと考えることはできたはずです。

Bさんには、1000万円の損害賠償が命じられました。

また、職員旅行や忘年会での出来事から、病院側もAさんへのいじめの存在を理解できるはずだったのに、何の措置も取らなかったとして、雇用契約に基づく安全配慮義務違反が認められました。

よって、勤務先の病院にも損害賠償が命じられました。


いじめをした張本人だけでなく、適切な対応をとらなかった雇用先にも損害賠償が求められるケースがあります。

企業としては、いじめやパワハラを「ちょっとしたトラブルだから本人間で解決させよう」とするのではなく、積極的に改善に関わる必要があります。