日報を使った指導方法

日報を使った指導方法

ネット炎上を防ぎつつ、問題社員に対応していくには以下の手順を踏んでいくことが望ましいとされます。

望ましい流れ 日報

1:日報を使用した指導を行い、従業員自身に課題を認識してもらう

2:会社はできるだけ細やかな指導を行い、記録を残す

3:教育指導の効果がなければ、降格・減給・退職勧奨などを実施する

4:それでも解決しなければ、紛争回避のために配置転換や合意退職、降格などの処分を行う

本記事では、問題社員対応の第一歩ともいえる、日報を使った指導方法について説明します。今回ご説明するのは、上記画像のフローチャート①と②にあたります。


実際に起こった事例を用いながら、具体的にどのような指導をすべきなのか、どのような点に気をつけるべきなのか、などについてお伝えします。

法的には決着がついたが、紛争状態が継続した事例

弊事務所で実際に取り扱った事例についてお話します。

使用者:スーパーのオーナー

相手方:もともと言動に問題があり、他のバイトから苦情が多い従業員。交通事故により長期間休職しており、復職時のシフトについてトラブルになった。

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交渉の経緯

交渉の経緯

使用者側

「こちらから解雇する気はないが、シフトには入れられません。シフトに入れないのに在籍する意味はありますか?」

「辞める辞めないは◯◯さんの自由です。」

労働者

「有給休暇、8日分、請求します。」

「解雇予告手当、過日の振り込みをしてください」

解決事例NO.8 より)

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このやり取りの後、労働者は労働組合に加入し、団体交渉の申し入れをしてきました。

この段階で弁護士が介入し、弁護士と使用者、組合担当者、労働者とで交渉を開始しました。その結果、解決金5万円を使用者側が労働者に支払い、労働者は店への立ち寄りを控えることで合意しました。


しかし、翌日、使用者側に労働者から合意には納得していないとの連絡がありました。労働者は、労働組合も脱退していました。


使用者と弁護士は、合意内容以上の請求には一切応じられないと回答し、解決金を供託にて支払いました。

その後も労働者は、他のスーパーの従業員に対して、「バイトでも有給は使える」ということを入れ知恵(店への嫌がらせ目的)をするなどの行為を続けました。

店の利用を控えるように伝えましたが、応じません。再三の忠告にも関わらず来店し続けたため、警察が介入しました。


その後、警察の介入に対して精神的苦痛を受けてうつ病になったと訴訟提起までしてきました。(請求は全て棄却されました)

本事例の問題点

この事例の問題点は2点あります。

1:強行的な退職勧奨の危険性

2:激しい感情の対立


1 まず1つ目の強行的な退職勧奨の危険性について説明します。

弁護士が介入する前に、使用者は


「こちらから解雇する気はないが、シフトには入れられません。シフトに入れないのに在籍する意味はありますか?」

「辞める辞めないは◯◯さんの自由です。」


といった内容を労働者に対して伝えています。この内容は、退職を迫るような態度に見え、場合によっては不当解雇と判断されてしまいます。


しかし、このケースでは労働者が解雇自体は認めるような言動をしたため、大きな問題とはなりませんでした。

もしこの対応がなければ、解雇自体が無効となり、問題のある従業員を雇い続けなくてはならなかったかもしれないのです。


2 続いて感情の対立についてです。

このケースは法律的には解決しています。しかし、両者の感情の対立が激しく、遺恨が残りました。


感情の対立が激しいということは、それだけネットでの炎上リスクが高いということ
になります。


結果に納得できなかった労働者がSNSなどを通じて店への誹謗中傷を投稿し、その投稿が拡散された場合、お店のイメージをかなり悪くしたかもしれません。

遺恨が残るということは、さらなるトラブルの火種を残すことに他ならないのです。


では、どうすればお互い了解の元で、トラブル回避することができるのでしょうか。

まず一つの手段として、日報を使った指導があります。次の項目では、具体的な日報作成の方法についてお伝えします。

日報の作成の目的

問題社員指導のために日報を作成する場合は、

・その日に行った業務の内容

・業務を行った時間

・本人が感じた成果・感想

・上長によるコメント


などを記入します。

記入内容は曖昧な内容ではなく、できるだけ具体的に書くようにします。また、固有名詞や数字などを詳細に記載させることもポイントです。


日報を作成することの最大の目的は、問題社員自身の自省をうながすことです。


日々の業務内容や、指導されたことをまとめることで、問題社員自身が自分の業務姿勢を客観的にチェックできます。


人は、自分にとって不都合な記憶は抜け落ちやすくできている生き物です。

よって、注意された内容や指示されたことは記憶から消えやすいのです。

毎日行った業務の内容や、指示されたこと、あるいは注意されたことを詳細に記録しておけば、本人の仕事ぶりを後からでも検証しやすくなるのです。


上司からのコメントも記入した方がよいでしょう。ただし、コメントの内容には十分注意しなくてはなりません。感情的な内容になりすぎると、かえってパワハラの証拠になるリスクがあるからです。


あくまでも客観的に本人の仕事ぶりを評価し、コメントすることが重要です。


また、本人が指導されたことと違ったことを記入していたり、注意されたことを忘れていたりしたら、都度コメントで指導するようにします。


日報の書式の例については以下の画像を参考にしてください。

日報の書式

日報作成時の注意

作成する日報には、できるだけ細かな情報を記載することが重要です。

実際に日報を作成するときに注意しておくべき点について説明します。

・電話対応や宅配応対などの細かな業務も記載する

業務の中には、大まかなものから細かなものまで様々なものがあると思います。

細かな業務内容まで詳しく記入することが重要です。


・業務の予定時間と実際にかかった時間の記載をする

実施した業務に関して、「本来ならどれくらいの時間で終わる業務なのか」「実際にどれだけの時間がかかったか」という情報を記載するようにしましょう。

たとえば、30分で終わるはずだった業務が、実際には50分かかった場合は、

「50分/30分」 などの記載を入れて予実管理を徹底します。


・業務量を数値化できる場合は、具体的な数字を記載する

業務の多さを数字で表せる場合は、数字で記載するようにします。たとえば、「50件分の商品発送準備をした」などのように、数字で定量化することで仕事量が明確になります。


・本人が記入する成果・感想欄の内容は具体的に記載する

何の業務ができて、何の業務ができていないかを具体的に記載させるようにします。また、できていない業務について、どうすれば改善することができるのか、本人に考えさせて記載させるようにしてください。

・定期的に面談を行う

日報に記載された内容のフィードバックのため、定期的に面談を行います。できていない業務の改善方法などについい具体的に教育・指導をおこなうようにしてください。

指導教育の実施

望ましい流れ 日報

日報を作成したら、それを元に指導教育を実施していきます。上記画像のフローチャートでは②に該当します。

指導教育を行うにあたっては、いくつかポイントがあります。

・顔を見て直接指導する

書面のみでのやり取りではなく、実際に顔を見合わせて指導するようにすることが重要です。


・対応責任者を明確にし、会社としても責任者を支える

問題社員の指導は、手間も根気も必要です。指導する責任者を明確にして、会社としてもきちんとバックアップしなくてはなりません。指導担当者は複数人にしておくと、一人一人の負担を軽減できます


・録音されても困らない発言を心がける

従業員側は、指導時の音声を録音している可能性もあります。ちょっとしたやり取りがパワハラや不当解雇の証拠となってしまうかもしれません。記録に残されたら不都合な発言はしないように心がけましょう。


・従業員の主張を否定しない

相手の主張を頭ごなしに否定するのは、後のトラブルの元となります。従業員の主張を否定するのではなく(「あなたの考え方はまったくもって間違っている」などの言い方)、「私(会社)の考えはこうだ。」というアプローチの仕方をするとよいでしょう。


・面談の様子をメモに残す

面談したときの相手の様子や、実際に行ったやりとりのメモを残しておくことも重要です。

具体的にどのような内容を記録すべきかというと、


・面談の日時、出席者

・面談の理由、目的

・本人の発言、態度

・使用者側がどのような対応をしたか


などがあります。「こんなことも必要か?」と思うような細かいことも記入しておいた方がよいです。詳細な内容が記載されていることで、メモ自体の信憑性が高まるからです。


なお多くの方が、「走り書きのメモなんて裁判の証拠にはならないだろう」と考えていらっしゃいますが、そんなことはありません。

むしろ、裁判所はこのような手書きのメモの証拠価値(立証に寄与する度合い)を非常に重視します。


走り書きのメモは、一見乱雑で価値がないように見えますが、パソコンを使って作成された理路整然とした文書よりも、リアルな当時の状況を把握することができるからです。

問題社員対応は弊事務所へご相談を

ここまで、日報を使った問題社員対応について触れましたが、「問題社員に対してこれだけ時間と労力を割かなければならないのか」と驚かれた使用者様も多いのでは無いでしょうか。

しかし、実際はこれだけ丁寧な対応をしなければ、あとから不当解雇として訴えられるリスクがあるのです。


解雇が無効になった場合、企業は未払いの給与を支払わなくてはなりません。


裁判自体にも相当な時間と労力が必要です。最初にできるだけていねいに対応をしておいた方が、あとからトラブル化するのを防げたり、裁判になったときに有利な証拠を残せるのです。


かといって、正しい対処方法ができるか不安なのであれば、専門家に任せてしまうのも1つの解決策です。


弊事務所には、問題社員サポートというプランがあります。

このプランは、問題社員への対応について、継続的に相談をしていただけるプランです。

料金は、1ヶ月あたり2万円+税、相談時間は上限5時間となっています。

継続的なサポートだけでなく、個別の案件にも対応致しますのでお気軽にご相談頂けたらと思います。


使用者様からのご相談は、初回無料
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