労災保険

第11 労災保険

1. 労災保険について

 労災保険は、業務災害で損害を被った労働者を保護するために必要な保険給付を行い、労働者が労働災害により困窮しないよう保護することを主たる目的としています。

 

 使用者は、労働災害で労働者が損害を被った場合に自己負担で労働者に保証することもできますが、労災保険を使用して労働者に適切な保険給付を実施することが多いようです。

 

 労災保険は、従業員を一人でも使用している事業場では原則として加入しなければなりません。保険料は、全額事業主負担となります。ただし、農林水産省のうち、従業員が4人以下の事業の保険加入は任意とされています。

 

 

2. 具体的ケース

(4) 肯定例

①配達などの業務に従事していた者が、商品配達のため使用者に無断でオート三輪者を運転していた際に事故死したケース(松本製菓工場事件:東京地判昭和32・5・6労民集8巻3号346頁)

 

②タクシー運転手が無断時間外勤務中に事故により死亡したケース(東進交通事件:東京地判昭和35・1・27労民集11巻1号89頁)

 

③同僚のために弁当を買って戻る際に交通事故にあったケース(岐阜労基署長(山口精機)事件:岐阜地平20・2・14労判968号196頁)

 

④運転手が、他の運転手の交通事故について救出作業をして、その後、事故車の復旧作業中に、後続車に追突され死亡したケース(北陸トラック運輸事件:名古屋地判平20・9・16労判972号93頁)

 

⑤出張中の労働者が宿泊施設内で懇親会の為飲食店によって酩酊して、宿泊施設の階段で転倒し死亡したケース(大分放送事件:福岡高判平5・4・28労判648号82頁)

 

 

(4) 否定例

①上司の依頼により同僚の引っ越しの手伝いに行く途中に発生した事故のケース(横浜労基署長事件:横浜地判平7・12・21訟月42巻11号2769頁)

 

②ホテルの客室係が、退勤時間から1時間30分程度後にホテル施設内の料理運搬リフトの通気孔内に転落して死亡したケース(宝塚グランドホテル事件:神戸地判昭58・12・19労判425号40頁)

 

③休憩時間中によって小用を足そうとして、仮停泊中の船から転落したケース(第五新高丸事件:東京地判平2・4・17労判562号72頁)

 

④出張中に現場宿舎で寝泊まりしていた従業員が、同じ職場で働いていた他の労働者の送別会で飲酒し、宿舎に帰った後で行方不明になり、数日後近くの川で溺死していたケース(東芝エンジニアリング事件:東京地判平11・8・9労判767号22頁)

 

⑤大工が建築現場で就職依頼に来た男に侮辱的な言葉を浴びせたなどとして喧嘩になり、暴行を受けて死亡したケース(倉敷労基署長事件:最一小判昭49・9・2民集28巻6号1135頁)