災害調査と臨検の典型調査

第5 災害調査の流れと調査内容

1. 災害調査

(1) 対象と実施方法

 災害調査は、労働災害により被災者が死亡した場合や、同時に複数人が被災する重大災害の場合、被災者が一人でも重篤な傷害を負った場合に実施されます。

 

 実施方法としては、まず、労働基準監督官に連絡が入り次第、速やかに労働基準監督官と産業安全専門官や労働衛生専門官等が現場に行きます。

 

 そして、災害発生現場の元々の状況、被災の状況、災害発生の原因、法令違反の有無などを中心に調査が行われます。

 

 調査の中で、法違反が災害の原因となっていると認められる場合には、司法審査に切り替わります。

 

 

(2) 企業の対応方法

 重大災害が発生した場合には、企業としてはまず、所轄の労基署に連絡をしなければなりません。さらに、一定の重大事故に関しては、事故報告書を提出しなければなりません。

 

 また、現場に来た労働基準監督官等の事情聴取に対応し、二次災害防止のための指示が出された場合には、可能な限り協力しなければなりません。

 

 災害発生の原因が、労働安全衛生法とこれに基づく規則その他法令について違反がある場合には、事業の関係者に労働基準監督署への出頭を命じられる場合があります。

 

 

2. 災害時監督

(1) 対象と流れ

 災害時監督は、災害調査を実施するケースに該当しない一定以上の労働災害が発生した場合に実施されます。

 

 流れとしては、まず、労働基準監督官が企業から提出された死傷病報告やや労災の報告書などから事故の発生原因に法令違反がありそうなものを抽出します。

 

 そして、実際に立入調査を実施した結果、法令違反が原因であると認められた場合は、労働基準監督官は、災害時監督の結果を基に災害再発防止のために是正勧告や指導票を渡すなどして是正指導を行います。

 

 

(2) 企業の対応方法

 事前に資料の開示を求められた場合には、その準備が必要になります。

 

 また、調査に来た労働基準監督官に対して、事故報告書に記載している事故の発生状況や被災労働者の状態などを具体的に説明することが求められます。

 

 

[労災事故発生報告書]

 

 

3. 災害調査・災害時監督の拒否

    1. 災害調査・災害時監督を行う権限は、法律により労働基準監督官に認められています(労基法101条1項、労衛法91条1項)。

       

       もっとも、強制捜査ではないため、強行されることはありません。

       

       しかし、労働基準法120条4号「臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述せず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類を提出した者」に該当する場合は、30万円以下の罰金の対象になります。

       

       また、拒否を続けることは、送検手続をされるおそれがあります。

       

       そのため、誠実な対応を取ることが求められます。

       

       

       

    第6 臨検の典型調査

    1. 残業代調査

      1.  残業代の調査は、タイムカードと賃金台帳を照らし合わせて残業代が適切に支払われているのかを調べます。

         

         また、タイムカードと実際の就業時間とが一致しているのかを確認するため、労働者にヒアリングを行うこともあります。

         

         

      2. 長時間労働調査

        1.  残業代が支払われていたとしても、会社は、36協定により労働者の残業時間の上限を定めなければなりません。そして、この上限を超えて残業させることは違法です。

           

           そのため、労働者の労働時間についてタイムカードの確認や、労働者に対するヒアリングによる調査が行われ、36協定を超える長時間労働が行われていないかを調査します。

           

           

        3. 健康診断調査

          1.  法律上、労働者を雇用したとき及びその後1年に1回の健康診断が義務付けられています。

             

             そのため、健康診断の結果についての書類などをもとに労働者に法律上必要な健康診断を受けさせているのかを調査します。

             

             

          4. 労働条件通知義務調査

            1.  労働者を雇用する際は、労働条件を書面で通知することが法律で義務付けられています。

               

               通知は、労働条件通知書や雇用契約書で行います。そのため、労働条件通知書や雇用契約書の控えなどをもとに、労働条件通知義務を果たしているかについての調査が行われます。

               

               

            5. 就業規則調査

              1.  10名以上の事業場については、就業規則の作成が企業に義務づけられています。

                 

                 そして、就業規則には、法律上必ず記載しなければいけない事項があります。そのため、就業規則についての調査が行われます。

                 

                 

              6. 最低賃金調査

                1. 最低賃金法により、企業が労働者に対して支払わなければならない最低の時給が決まっています。

                   

                   そのため、最低賃金を下回っていないかについての調査が行われます。

                   

                   

                7. 安全衛生調査

                  1.  労働者が50名以上の事業所では、衛生管理者や安全管理者、産業医等の選任が義務付けられています。また、長時間労働者に対する医師の面談指導制度の導入や、ストレスチェックの実施も義務付けられています。

                     

                     そのため、安全衛生管理体制が整備されているかについての調査が行われます。