第3 中小企業に対する時間外労働(1か月60時間超)の割増率の引上げ(労基法)
1.平成30年改正規定
(1) 改正のポイント
平成30年(2023年)4月1日からは、中小事業主を含む全事業主に対して1か月間に60時間を超える時間外労働については、「5割以上」の割増賃金が適用されます。
(2) 現行法での扱い
すでに、現行の労基法においては1か月間に60時間を超える時間外労働については、法定の割増賃金が「5割以上」になっています(労基法37条1項ただし書)。
もっとも、下記の図の中小企業事業主については、当分の間適用が猶予されていました(労基法138条)。
【図 月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金率の適用が平成34年(2022年)3月末まで猶予されている中小企業】
資本金の額または出資の総額 |
|
小売業 |
5,000万円以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
その他 |
3億円以下 |
または
常時使用する労働者が |
|
小売業 |
50人以下 |
サービス業 |
100人以下 |
卸売業 |
100人以下 |
その他 |
300人以下 |
(3) 平成30年改正労基法
平成30年改正労基法では、上記図の中小事業主についての1か月間に60時間を超える時間外労働に対する「5割以上」の割増賃金率の適用を猶予している現行労基法138条が廃止されます。
なお、この規定についての改定法の施行日は、中小企業への影響を考慮して、平成35年(2023年)4月1日としています。
2. 平成30年労基法改正後の割増賃金の割増率、計算方法
(1) 割増賃金の支払いが必要な場合
使用者が割増賃金を支払わなければならないのは、以下の場合です。
① その事業上の過半数で組織された労働組合または 労働者の過半数を代表する者との書面による協定し、労基所長に届け出て、時間外または休日の労働をさせた場合
② 災害等の非常事態により随時の必要のある場合において、労基署長の許可を受けて時間外または休日の労働をさせた場合(場合によっては事後に届け出た場合)、公務のために臨時の必要があるときにおいて時間外又は休暇に労働をさせた場合
なお、違法、あるいは必要な手続きを経ないで時間外労働又は休日労働を行わせた場合にも、使用者は、割増賃金の支払義務を免れません。
(2) 別事業所で勤務した場合にはどうなるか
1日のうちに2つの事業場で労働した場合に、それぞれの事業場では法定労働時間内であっても、両事業上の労働時間の合計が法定労働時間を超えるときは、後で働いた事業場の使用者に割増賃金の支払義務が生じます。
なお、このとき、両事業場が同一企業であるか別企業であるかは問いません。
(3) 時間外・休日労働が深夜労働と重なる場合の取扱い
条件 |
割増率 |
時間外労働 |
通常賃金の25%以上増し。ただし、1か月間に60時間を超える時間分については、50%以上増し。 |
深夜労働 |
通常賃金の25%以上増し。 |
休日労働 |
通常賃金の35%以上増し(休日の1日に8時間を超えて働いても同じ)。 |
時間外労働+深夜労働 |
通常賃金の50%以上増し。 |
休日労働+深夜労働 |
通常賃金の60%以上増し。 |
(4) 割増賃金の間違いやすい点
(5) 割増賃金の計算方法
1 計算に必要な通常賃金額を出します。
2 1時間当たりの通常賃金額を計算します。
通常賃金が1時間当たりいくらになるかは賃金支給携帯から計算します。
賃金形態 |
計算方法 |
①時間給 |
時間によって定められた賃金については、その金額。 |
②日給 |
日によって定められた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数(変形労働時間制をとる場合や、平日の所定労働時間は8時間であるが、土曜日のみは4時間である場合等のように日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日平均所定時間数)で割って得た金額。 |
③週休 |
週によって定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で割って得た金額。 |
④月給 |
月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で割って得た金額。 |
⑤旬級等 |
月、週以外の所定の期間によって定められた賃金については、上記①~④に準じて計算した金額。 |
⑥請負給 |
出来高払制その他請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には賃金締切期)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金算定期間における総労働時間で割って得た金額(なお、労基法27条の保障も請負給の一種であり、この方法による)。 |
注1: 労働者の受け取る賃金が①~⑥の賃金の2つ以上の形態により構成されている場合は、その部分についてそれぞれ前述した方法で計算した金額の合計額。
注2:休日手当(休日労働について支払われる割増賃金ではなく、所定休日に労働するか否かにかかわらずその日について支払われる賃金)、その他①~⑥に含まれない賃金は、月によって定められた賃金とみなし、④の方法によって計算する。
3 割増賃金の額を出します。
割増賃金 =1時間当たりの通常賃金額×割増率×時間外・休日・深夜労働時間数 |
3.月給制の場合の割増賃金計算方法
※ 1年間の所定労働時間の総数を12か月で割って得た時間数のことです。
その月の通常賃金額を、その月の所定労働時間数で割るのは誤りです。
4.年俸制の場合の割増賃金計算方法
(1) 割増賃金の取扱い
年俸制で賃金が支払割れっている従業員であっても、時間外労働、休日労働及び深夜労働を行わせたときは、年俸金額とは別に法定の割増賃金を支払わなければなりません。
ただし、労基法41条に定める管理監督者等については、労基法の労働時間、休憩時間、休日、割増賃金支払などに関する規定が適用除外となっています。
そのため、深夜労働の割増賃金を除き、割増賃金の支払義務はありません。
(2) 割増賃金の計算方法
年俸制の場合の割増賃金の計算の仕方は、以下の通りです。
① 年俸金額(予め支給額が確定している賞与を含む。)÷12か月
=割増賃金の計算基礎となる賃金月額
② ①の賃金月額÷1か月平均労働時間数×割増率
=割増賃金の時間当たりの単価
③ ②の時間当たりの単価×時間外・休日・深夜労働時間数
=割増賃金
なお、賞与のうち、その従業員の勤務成績等に応じて支給されるものであって、その支給額が確定していない賞与は、年俸金額から除外して計算します。
5.割増賃金計算の基礎となる通常賃金・除外賃金
(1) 通常賃金とは
通常賃金とは、「通常の労働時間または労働日の賃金」のことを指します。
ここでいう「通常の労働時間または労働日の賃金」(通常賃金)とは、割増賃金を支払うべき労働(時間外・休日労働または深夜労働)が、深夜でない所定労働時間に行われた場合に支払われる賃金のことです。そして、通常賃金は、割増賃金の計算の基礎になります。
(2) 除外賃金とは
除外賃金(割増賃金の計算基礎から除外される賃金)
|
名称 |
内容 |
① |
家族手当 |
扶養家族数、又はこれを基礎とする手当 |
② |
通勤手当 |
通勤距離、又は通勤に要する実際費用に応じて算出する手当 |
③ |
別居手当 |
単身赴任者を対象とする手当 |
④ |
子女教育手当 |
通学中の子の数に応じて支払う手当 |
⑤ |
住宅手当 |
住宅に要する費用に応じて算定する手当 |
⑥ |
臨時に支払われた賃金 |
臨時的、突発的な理由に基づいて支払うもの(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金) |
⑦ |
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
賞与、1か月を超える期間ごとに支払われる精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当 |