第2  平成30年労働基準法等の改正内容とその対応策

1.平成30年労働基準法等の改正内容とその対応策

長時間労働を抑制するとともに、労働者が、その健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するため、労働時間制度の見直しを行う等所要の改正を行う。

 

I 長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策等

1)時間外労働の罰則付き上限規制

 ・週40時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則として、月45時間、かつ、年360時間とする。特例として、単月100時間(休日労働を含む)未満、複数月(2~6カ月)平均で80時間(同)以内、かつ、年720時間以内とする。これらの違反には罰則を科す。

 

2)中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

 ・月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する(4年後実施)。

 

3)年5日の年次有給休暇の確実な取得

 ・使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について.毎年、時季を指定して与えなければならないこととする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)。

 

Ⅱ 多様で柔軟な働き方の実現

1)フレックスタイム制の見直し

 ・ フレックスタイム制の「清算期間」の上限を「1カ月」から「3カ月」に延長する。

 

 

2)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

・ 職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1、075万円以上)を有する労働者が.高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。

 

・ また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には.事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする(※労働安全衛生法の改正)。

 

施行期日:平成31年(2019年)4月1日(ただし、Iの1(1)については、中小企業は平成32年(2020年)4月1日。また、1の(2)については平成35年(2023年)4月1日)。

 

2.労働時間 割増賃金に関する改正事項

 

制度・措置名

適用範囲・要件

規制内容

Ⅰ原則

一日当たりの法定労働時間:8時間

1週間当たりの法定労働時間:40時間(特例措置対象事業場:44時間

Ⅱ変形労働時間制、フレックスタイム制による特例

1.1か月変形制

①労使協定、就業規則、書面のいずれかが必要

②請求のあった妊産婦(妊娠中・出産後1年以内の女性)、年少者(満18歳未満の者)は除く

1か月以内の変形期間(対象期間)を平均し、40時間(特例事業場は44時間)

※1日、1週当たりの所定労働時間の上限なし

2.1年変形制

①就業規則と労使協定が必要

②一般職の地方公務員、請求のあった妊産婦、年少者は除く

①1年以内の変形期間を平均し、週40時間以内

②1日10時間、52時間が限度

3.1週間変形制

①労使協定が必要

②労働者数29人までの小売業、旅館、料理店、飲食店

③請求のあった妊産婦、年少者は除く

週40時間、1日10時間が限度

フレックス

タイム制

一般職の地方公務員、年少者は除く

3か月以内の精算期間を平均し、週40時間(特例事業場は44時間)以内

(精算期間を最長1か月

から3か月に延長)

Ⅲ業種・業務による特例

1.みなし労働

時間制

①専門業務型裁量労働制

②企画業務型裁量労働制

③事業場外労働

実労時間の算定に、みなし労働時間を適用できる

2.労基法の労働時間等の規定の適用除外

1)次の各者が対象(年少者は除く)

①管理監督者、機密事務取扱      

 者

②監視・継続的労働従事者で労基署長の許可を受けた者

③農業、畜産・蚕産・水産業に従事する者

 

労働時間、休憩、休日、割増賃金に関する規定は適用除外

深夜労働割増は適用される

 

2)高度プロフェッショナル制度

次の要件の者が対象

①年収1,075万円以上

②金融商品の開発・販売・分析の業務、コンサルタント業務従事者

労働時間、深夜労働、休暇、休日、割増賃金の規定は全て適用除外(深夜労働割増も適用除外)

Ⅳ年齢による特例

1.原則

満15歳の学年末までの者

就業禁止

年少者(満18歳未満の者)

変形労働時間制、フレックスタイム制不可

2.1日の労働時間の延長

年少者

週40時間を超えない範囲内で、1週間の内1日を4時間以内に短縮した場合、他の日を10時間まで延長

3.7時間労働制

就学児童(満13歳以上)で、労基署長の許可を受けた場合

労働時間と就業時間を算定して週40時間、1日7時間まで

Ⅴ(三十六協定に特別条項を設けた場合)

時間外労働の罰則付き上限

1.1か月に100時間(休日労働者を含む)未満

2.2~6か月間の平均で月80時間(休日労働を含む)以内

3.1年間で720時間(1か月平均60時間以内)

4.特別条項の適用は、1年間のうち6か月まで

Ⅵ割増賃金の支払義務

1.時間外労働:25%以上の割増賃金

 (1日8時間、週40時間超)

 ただし、1か月60時間の場合は、中小企業を除き50%以上の割増賃金

 (平成35年(2023年)4月1日からは、中小企業も50%以上の割増賃金支払義務あり)

2.休日労働:35%以上の割増賃金(法定休日(1週間に1日)の労働)

3.深夜労働:25%以上の割増賃金(午後10時~翌日午前5時の労働)

 

3.時間外 休日労働上限規制に関する改正事項

平成30年労基法改正-時間外・休日労働上限規制-の概要

(31年4月施行)

Ⅰ項目

Ⅱ現行法の時間外・休日労働の

上限規制

Ⅲ改正法の時間外・

休日労働の上限規制

①法定労働時間の上限

・1日8時間

・週40時間

労基法の規定

 これ以上働かせるためには36協定が必要

現行法と同内容

②時間外労働の原則的上限(36協定を結んだ場合)

・1か月45時

 間

・1年間360時間

時間外労働限度基準告示

・規制内容は変わらず

・告示から労基法に格上げ

③時間外・休日労働の特例(36協定に別条項を設けた場合)

・延長時間の上限なし(青天井)

・上限超えは1年間に6か月まで

36協定で「特別条項」を結べば可能」

a 休日労働を含み、1か月で100時間未満

b 休日労働を含み、2~6か月平均で80時間以内

c 1年間で720時間(月平均60時間)以内

d 特別条項の適用は1年間に6か月まで

 

労基法の原則的な時間外労働の限度時間

(平成10年12月28日労働省告示154号)

一定期間

一般労働者の限度時間

1年変形労働時間制の限度時間

(対象期間が3か月超の場合)

1週間

15時間

14時間

2週間

27

25

3週間

43

40

1か月

45

42

2か月

81

75

3か月

120

110

1年間

360

320

 

4.企業の改正法への対応策

 改正法規制の趣旨は、現行の厚生労働大臣告示である「時間外労働の限度基準」の内容を改正労基法に格上げし、法違反に対して罰則を科すものです。

 そのため、各企業では時間外労働を原則の範囲内に収める体制づくりが必要です。

 また、現行法の限度基準を基礎とする上限規制には法定休日の労働時間を含みませんが、改正法規制の基では法定休日の労働時間も含まれるため注意が必要です。