雇い止め・内定取消の進め方

雇い止め・内定取消の進め方


正社員の人員整理を行う場合は、希望退職者の募集→退職勧奨→整理解雇の手順を踏むのが基本的な考えだということは、「コロナ禍における人員整理の進め方」の記事でお伝えしました。


しかし、契約社員の雇い止めや、新規採用者の内定取消しについては、また少し違った考え方やおさえておくべきポイントがあります。

それぞれについて詳しく解説します。

雇い止め

雇い止めとは

雇い止めとは、


有期雇用の従業員について、機関の満了時に使用者が雇用契約の更新をせず、当該有期雇用契約が終了すること
を指します。


例をあげると、労働期間を令和2年10月から令和4年9月までの2年間とした場合に、令和4年10月1日以降の労働契約を更新しないこと、が雇い止めにあたります。


定義だけを見ると、とてもシンプルな構造に見えます。

しかし、雇い止めに関しては、以下の場合には法的な規制があるため、慎重に行わなくてはなりません。

具体的には、


◯当該労働契約がこれまで何度も更新され、期間の定めのない労働契約と同視できる場合

◯契約の更新に関して、労働者に期待を持つことに合理的な理由がある場合


です。

このようなケースで労働者が期限内に更新を申し出た場合、雇い止めに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえる場合でなければこれを拒絶できず、当該申込みを承諾したものとみなされるのです。

雇い止めの具体例

では以下のとある裁判例について、雇い止めが有効かどうかを検討してみましょう。

────<事例>────

労働者:X 使用者:Y

◯Xは臨時員として雇用されていた

◯Xは比較的簡易な作業に従事していた

◯Y社における臨時員の採用は簡易な手続きだった

◯Xに関する有期契約では、5回契約が更新されていた

◯Y社の無期の雇用契約においては、各労働者は複雑な業務に従事していた

◯臨時員の雇用期間の更新に関しては、期間満了の約一週間前に本人の意思を確認し、その都度新しい契約を巻きなおす方法をとっていた。


────────────

まず、この事例における契約更新の回数は5回です。この回数では、実質的に期間の定めのない労働契約関係があったとはいえません。

※短期2ヶ月の有期契約が23回更新されたこと等を重視して雇い止めを無効とした判例もあります。(最判昭和49年7月22日民集28巻5号927頁)

また、採用の手続きは簡易であり、一般的に慎重な手続きでなされる無期の雇用契約を想定されたものではありませんでした。


さらに、Xは比較的簡易な作業に従事していたので、Xの労働契約上の地位は、無期の労働契約の場合と差があると考えられます。


そして、XY間の短期契約の更新は、その都度新しい契約を巻きなおす形で行われていたため、Yが無期雇用契約をXに期待させるような行動を取っていたわけではありません。


以上の事柄を検討すると、この事例における雇い止めは有効だと言えます。


一方で、もし正社員と同様の面接を行うなど複雑な採用手続きをしていたり、契約更新の数がとても多かったりしていたのであれば、雇い止め自体が無効になっていたかもしれないのです。

このように、雇い止めはただ契約を更新しなければいい、という単純なものではありません。法規制に基づき、客観的に有効となるかどうかを十分に検討しなくてはならないのです。

内定取消し

内定取消しについての現況

新型コロナウイルスの影響を受け、内定取消しによって人員整理をする企業も増えてきています。

厚生労働省の調査によると、2020年春卒業の大学生や高校生への内定取消しは、同年8月の時点で76事業所、174人でした。この数字は、昨年度と比べて約5倍も多いものとなります。

実際には水面下で内定取消しが行われており、本当の数字は上記のものよりも多いと考えられます。

今後も新型コロナウイルスによる営業不振の影響を受け、企業が内定取消しを検討する機会は増加すると思われます。

内定取消しを行うときの注意点

内定取消しも、雇い止めと同様に慎重に検討する必要があります。

まず、前提となる考え方として

①原則、内定を応募者が承諾した段階で労働契約が成立している

②コロナによる業績不振が原因でも、それはあくまで使用者の事情である


であることを知っておかなくてはなりません。

まず、①についてです。原則は内定が出た段階で労働契約が成立していると判断されます。そのため、一方的に内定を取り消すことは「解雇」に当たり、解雇権濫用法理による制限を受けます。


また、②のように経営上の理由から解雇する場合、「整理解雇」として更に厳格に適法性が審査されます。

内定取消しをする際に最もやってはいけないのが、


内定取消しの通知書のみ送付して、事を終わらせようとするやり方」です。


上記で説明した通り、内定取消しには厳しい法的制約があります。よって、この方法では内定取消しが無効になる可能性が高くなります。


内定取消しが無効になった場合、企業は応募者を雇用しなければならないだけでなく、未払い賃金を支払う必要性が出てきます。

また、内定取消しをした事実がマスコミやSNSなどで騒がれ、企業のイメージダウンにつながる恐れもあります。

内定取消しを企業側が一方的に行うことは、法的規制もありリスクが大きいです。


よって、内定の取消しをするよりも、まずは合意による「内定の解消」を目指すべきです。


合意の上の内定の解消を目指すべきである理由としては、


◯内定者はまだ働きはじめていないので、早期に次の就職活動に移ることができる。よって、企業に対するヘイト感情が残りにくい

◯大学生や高校生はまだまだ売り手市場であり、次の就職先が見つかりやすい。

◯交渉相手(事実上本人の親)は誠意を込めて話し合えばわかってくれる場合が多い


などがあります。

後々紛争とならないように、「内定契約合意解約書」などの書面を交わしておくとスムーズに内定解消の手続きができます。

企業がなすべき対応

以上のことを踏まえ、内定取消しを検討するときには、

◯内定取り消しの必要性

◯内定取消し回避のための努力を使用者が行ったか

◯内定取消し対象者の選定基準や選定が合理的か

◯内定取消し対象者に対し、使用者が誠意をもって対応したか


という4つの要素について十分考慮しなくてはなりません。

労務関係のご相談は初回無料でお受け付けします

新型コロナウイルスの影響を受けた企業が、人員整理をする機会は今後も増えていくと思われます。

その際、十分な注意をしないと紛争事件へと発展する恐れがあります。

雇い止めや内定取消しについても、法的な規制がありますので、正社員の解雇と同じく慎重に取り組む必要があります。


法律の専門家である弁護士にご相談いただければ、後からトラブル化しない対応方法をご提案できます。

弊事務所には中小企業の人事・労務問題に明るい弁護士が多数在籍しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。


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