従業員が新型コロナに感染した場合の対応

従業員がコロナに感染したときの対応


万が一従業員がコロナに感染した場合、企業は迅速な対応を求められます。

あらかじめ、どのような対応をするか決めていない企業も多くあるかと思います。しかし、いざ社員が感染してから対応策を決めていては遅すぎるのです。


この項目では、従業員が新型コロナウイルスに感染したときに企業が取るべき対応について説明します。

感染者に対して

従業員が感染した場合は、まず医師・保健所の指示に従って、感染リスクがなくなるまで休業してもらいます。

都道府県知事が行う就業制限による休業であるため、賃金の支払い義務はありません。


また、新型コロナウイルスの症状が出たとしても、検査を受けてから陽性の結果が出るまでに時間を要する場合があります。企業は、正式に陽性と判明する前の段階であっても、従業員の体調や症状を確認して、就労を控えてもらうことが必要です。


続いて、濃厚接触者の特定をします。

感染者が発症(37.5度以上の発熱等)した日から、最終出社日までの行動歴(場所等)を踏まえて、職場で濃厚接触者がいないかヒアリングを行います。


感染者と発症日及び前2日間、周囲半径2m以内で30分以上の接触がある者、また半径1m以内でマスクをせずに15分以上接触ある者については、濃厚接触者である疑いがあるとしてリストアップを行います。

濃厚接触者の自宅待機中の賃金

濃厚接触者には、感染者との最終接触日より起算して14日間の自宅待機を指示します。
自宅待機中の賃金は、以下の場合によって取り扱いが異なります。


①行政側からの要請や指示による休業の場合

②濃厚接触者に熱等の症状があり、感染の疑いがある場合

③社内の感染予防のために、会社の自主判断によって一斉に休業・自宅待機させる場合


①の場合は、不可抗力による休業であるため賃金の支払い義務はありません。


②の場合、濃厚接触者も、社会通念上労務の提供ができないと考えられるため、賃金の支払い義務はありません。検査の結果、陰性であったり、症状が完全になくなったりした場合には自宅待機の解除を検討してもよいでしょう。


③の場合、不可抗力による休業ではなく、会社の自主判断による休業である以上、労働基準法26条に基づき、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う義務があります。

接触場所の消毒

発症者の行動歴から、手指などの接触場所の洗い出しを行い、消毒すべき場所を特定します。

消毒場所としては、感染者が最終出社日および前2日間に15分以上の使用があった場所、手指がよく触れた場所や共用場所(食堂、更衣室、トイレ等)が望ましいです。

公表と情報提供

社内から感染者が出た場合、その事実を公表し、情報提供を行うべきなのでしょうか。

諸外国では、感染者の個人情報は公表していませんし、そもそも社内から感染者が出たことすらも公表していません。

日本では、取引先企業から情報公開圧力が厳しくなったという事例はありましたが、公表しなくてはならないというルールはありません。

社内に対して感染者の情報を提供する場合も注意が必要です。


新型コロナウイルスに感染したという情報は、本人の病歴に関する情報であり、要配慮個人情報に該当すると考えられます。

よって、必要性もないのに安易にその情報を開示することは避けるべきです。


実は、個人情報保護法では、

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本人の同意が得られない場合であっても、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合や公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合などでは、例外的に個人情報の取り扱いを認める場合もある

(個人情報保護法16条3項2.3号)

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との記載があります。今回の新型コロナウイルス感染症の事例では、「公衆衛生の向上」の項目に当てはまると考えられます。

しかし、それでも後からトラブルが発生するのを避けるためにも、本人の同意を得ることが望ましいです。

社外(取引先)に情報提供する場合、情報提供の目的が「取引先の濃厚接触者を特定するため」なのであれば、「誰が感染したのか」というのは必要な情報となります。

上記のケースであれば、感染者の情報提供が必要になると考えられます。

しかし、そうでなければ、具体的にどの部署の誰が感染したのかなど詳細な情報を伝える必要はないでしょう。

労災の認定

労災の認定を受けるためには、その傷病が業務によって生じたものであること、つまり「業務起因性」が必要となります。

実際に従業員が新型コロナウイルスに感染した場合に、その感染に業務起因性があるかどうかを判断するのはとてもむずかしいです。


この点について、厚生労働省は令和2年4月28日付「新型コロナウイルス感染症の労災保証における取扱いについて」(基発0428第1号)の通達をだしています。

この通達には、国内事例の新型コロナウイルス感染症の業務起因性について以下のように判断するよう書かれています。


 ①医療従事者等

 患者の診療もしくは看護の業務、または介護の業務などに従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。


 ②医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの

 感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること


 ③医療従事者以外の労働者であって、上記②以外のもの

 調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること

 
 (ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務

 (イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

 
 この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。



このように、新型コロナウイルスに感染した従業員が医療従事者等であれば、業務外の感染経路が明らかである場合を除き、原則として業務起因性を認める、すなわち因果関係を推定するという考えを示しています。


 一方、医療従事者以外については、感染源が明らかでない場合には、同一労働環境に複数の感染者が確認されているかどうか、顧客との近接や接触の機会があったかどうかを踏まえて個別に判断するとしています。


したがって、具体的経路が明らかでなく、また医療従事者等に当てはまらない場合でも、職場に他にも感染者がいる場合や、顧客との接触の機会が多い場合には、当該新型コロナウイルス感染症の発症は業務に起因したものと考えられ、労災認定がなされる可能性があるのです。

感染した従業員からの会社に対する法的責任追及

今後起こり得るトラブルとして、新型コロナに感染した従業員から会社に対して法的責任追及をするというものが考えられます。

これは、従業員から「感染防止していない職場で働かせたから感染した」と会社に対して請求を行うものです。


そもそも、使用者は労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならない義務を負っています。(労働契約法第5条)

これを、「安全配慮義務」といいます。


感染した従業員から損害賠償請求された場合、

①安全配慮義務違反の有無

②因果関係


の2点が重要な争点になります。

安全配慮義務違反の有無について

使用者がとるべき安全配慮の内容は、業務の内容・性質から個別に判断されることとなります。


たとえば、緊急事態宣言発令後もいわゆる「3密」が生じる業務運営を回避する手段の検討すら行わず、何ら感染防止措置をとらずに万全と業務を行っていた場合には、安全配慮義務違反は肯定されるでしょう。


一方、会社としてとりうる感染予防措置は可能な限り実施していたのであれば、安全配慮義務違反は否定されます。

因果関係について

裁判所は安全配慮義務違反における因果関係を検討するにあたって、上記通達の同判断枠組みを参照するであろうと思われます。


特に、医療従事者等については、上記通達において業務起因性が事実上推定される内容となっているため、使用者としては仮に因果関係が肯定されたとしても「安全配慮義務を尽くしていた」と主張できるよう、感染予防のためにとりうる措置は万全に尽くしておくことが重要です。

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