コロナ禍における人員整理の進め方

コロナ禍における人員整理の進め方


コロナ不況により、人員削減、いわゆるリストラによって会社を守ろうとする企業が増えてきました。

人件費を削ることは、企業が資金繰りのためにできる1つの手段です。

会社からの働きかけによるリストラの方法は2つあります。

◯合意退職…話し合いを通じて従業員自らの意思で退職に応じてもらう方法

◯解雇…従業員の意思にかかわらず一方的に労働契約を終了させる方法


です。

しかし、経営上の理由による解雇(=整理解雇)は非常にリスクが大きいです。

この記事では、


◯整理解雇におけるリスク

◯人員整理の正しい順番

◯人員整理をする前に検討すべきこと

◯整理解雇の4要件

◯紛争にならないために


について解説いたします。

整理解雇のリスク

整理解雇には大きく分けて2つのリスクがあります。「経済的リスク」と「炎上リスク」です。

どちらもきちんと理解をしていないと、後々会社に大きな損害を与えうるリスクです。

経済的リスク

まず大前提として、整理解雇には厳格な法規制があります。従業員は法によって守られていますから、そう簡単に解雇することはできません。

労働紛争となった場合、解雇自体が無効と判断される可能性もあります。


仮に解雇が無効とされた場合、解雇後の就労させていない期間についても給与を支払う義務があります。



また、解雇から1年、2年経ってから、突然解雇無効の主張がされることもあります。

その場合、解雇が無効となると、1,000万円近い未払い賃金債務が発生することも考えられます。そして、このようなケースは決して珍しくはないのです。


このように正しく対応をしないと、人件費を節約するために行った整理解雇で、多額の債務を負うことになってしまうのです。

炎上リスク

もう1つあるリスクが、炎上リスクです。


SNSの普及によるネット炎上が考えられます。解雇された元従業員や関係者がネット上に解雇の事実を書き込むことで、非難や誹謗中傷が集中する可能性があります。

一度炎上してしまうと、企業イメージの低下は避けられません。また、現在のイメージダウンだけでなく、将来の求人にも悪影響を及ぼす可能性があります。


以上のリスクを考えると、整理解雇は本当にやむを得ない場合に、慎重な判断・入念な準備の下で行われる必要があるのです。

人員整理の基本的な考え方

そのため人員整理においては、合意退職を目指すのが基本的な方針です。

順番としては、


1:希望退職を募集する

2:退職勧奨を行う

3:解雇


の順に検討して行きます。

希望退職募集による合意退職

希望退職募集を行う場合は、以下の点に注意が必要です。

◯希望退職募集の条件を明示する

募集をかける際は、退職金の割増額などの条件をはっきりと明示しなくてはなりません。 

あらかじめ書面にしておけば、説明にブレがなくなり、後々トラブルになることを避けられます。できれば、具体的な経営上の数字を多く盛り込んでおいたほうが良いでしょう。



◯選択肢を提示する

希望退職募集をかける場合は、もし退職を希望しなくても、「退職」「在籍したまま転勤」「職種の変更」などの可能性があることを説明するべきです。

条件にもよりますが、退職以外にも労働環境の変化があることを示せば、社員の意思も退職に傾きやすくなります。



◯検討する時間を十分与える

検討する時間が短すぎると、社員の気持ちはなかなか退職へと向かなくなります。

最低でも1週間は確保して、じっくり検討できるようにした方が良いです。


◯月給2ヶ月程度の割増退職金

希望退職者の退職金は、月給2ヶ月分程度の割増があった方が良いです。従業員も会社の業績を知っているため、割増退職金が平均よりも少なくても理解してもらえる場合が多いです。

しかし、だからといって数万円程度の割増では希望者が現れません。


◯残留してほしい従業員には事前に説得を

業務上重要な仕事を担っているなど、希望退職してほしくない従業員には、事前に話をして説得するなどの配慮が必要です。

退職勧奨の手順

希望退職者だけでは十分な人員整理ができなければ、退職勧奨をすすめていくこととなります。

退職勧奨の基本的な手順は、

① 退職勧奨の方針を社内で共有する

② 退職勧奨を整理したメモを作成する

③ 従業員を個室に呼び出す

④ 従業員に退職してほしい旨を伝える

⑤ 退職勧奨についての回答の期限を従業員に伝え、検討を促す

⑥ 退職の時期、金銭等の処遇を話し合う

⑦ 合意退職書面を作成する


です。

退職勧奨をする際の注意点

退職勧奨をするときには、細心の注意を払わないと労働紛争となる恐れがあります。

特に気をつけていただきたいのが、

退職するかどうかの決定権は従業員にあり、会社が本人に退職を強要するかのような言動は違法になる


という点です。この点をおさえておかないと、後から合意による退職ではないため無効だと争われることとなります。

無効だと判断された期間においては給与を支払わなくてはならなくなります。


トラブルにならないためには、


◯従業員が解雇されたと誤解しないように、解雇ではなく退職勧奨であることを明確に伝える

◯「退職勧奨を断った場合は解雇する」とは言わない

◯従業員から「解雇してください」と言われても、安易に解雇の通知をしない※



※解雇とは、使用者側からの一方的な意思表示であるため、解雇の同意というのはあり得ません。あとから、会社が一方的に解雇したと判断される可能性があるためです。



などの対策が有効です。

会社の状況や今後の見通しなどを十分説明し、従業員本人に納得して退職に合意してもらえるようにすすめなくてはなりません。


その他にも


◯検討する時間を十分に与え、即時判断を求めない

◯割増退職金、または解決金を支払う

◯従業員の転職活動に配慮する必要を見せる

◯従業員とのやりとりは文書化し、証拠として残しておく


などの工夫が必要です。

従業員が納得していれば、後から紛争化するリスクは下がります。仮に紛争化したとしても、上記の工夫をしていれば、合意退職が有効であると判断されやすくなります。


また、退職勧奨をした場合、合意退職であっても会社都合退職扱いとします。

これにより、従業員は失業給付を速やかに受けられます。一方会社としては、助成金等に影響がでますが、これは仕方がないもとの理解し、無理やり自己都合退職にはしないようにします。

解雇によって人員整理をする場合

整理解雇の4要件

希望退職募集、退職勧奨を行っても十分な人員整理ができない場合は、整理解雇を検討します。

整理解雇を行うときは、以下に説明する「整理解雇の4要件」が満たされていないといけません。その4要件とは、

1:人員削減の必要性

  人員削減措置が経営上の十分な必要性に基づいていること


2:解雇回避の努力

  解雇を回避するために合理的な経営上の努力を尽くしていること


3:人員選定の合理性

  対象者を意図的にではなく、客観的・合理的な基準で選定していること


4:手続きの妥当性

  経営状況、人員選定基準、解雇時期、規模、方法などについて説明、協議を行っていること


です。

解雇を行うときに検討すべきこと

整理解雇を行うときには、上記4つの要件を満たすために、以下の事項について慎重に検討しなくてはなりません。


まず、人員削減以外の方法での経営改善が可能か検討します。経費の削減、役員報酬の削減、新規採用の見送り、残業規制…などによって経営改善できないか、人員削減を行うことがやむを得ないかどうか検討します。


続いて、解雇回避努力を実施します。希望退職者の募集を行うなどの努力が必要です。いきなり解雇を行った場合、解雇努力義務を果たしていないと判断され、解雇が無効となる可能性があります。

事業所の縮小などの場合、配置転換や出向によって解雇が回避できないかも検討します。



人選が適切であるか
も慎重に検討すべきです。

勤務成績や年齢・勤続年数、解雇によって被る打撃の度合い、雇用形態など客観的かつ合理的な基準を持って、対象者を選定しなくてはなりません。



対象者への説明・協議
も十分に行います。

整理解雇の必要性とその内容、人選基準について十分な説明を行い、誠意を持って協議を行います。

その際、「経営状況のわかる客観的な資料を提示する」「対象者が労働組合に所属しているのであれば、組合に対して説明を行う」などの工夫をしておけば、紛争に繋がるリスクを下げられます。

退職勧奨条項を設定して紛争を予防する

不況期においては、経済回復の見通しが立たず、今後も現在の雇用を維持できるかわからない状況が続くことも考えられます。

今後も不況が続くことを見越して、これ以降新しく従業員を雇用する際には、労働契約の条項に退職を促しやすくする条項を備えておくことが望ましいでしょう。


しかし、日本ではアメリカにおけるレイオフ(企業の業績悪化などを理由とする随時解雇)制度はありません。よって、事前に解雇ができる旨の内容を雇用契約書に記載することはできませんので注意してください。


労働紛争になる確率の高低は、


相対的な待遇・労働条件の高低+雇用継続に対する期待値


によって変わって来ます。


例えば、裁判に発展するような事案はほとんどが正社員とのトラブルです。逆に、少ないのが派遣社員です。

これは、正社員は雇用に対する期待が高く、派遣社員は期待が低い傾向にあるのが理由です。

また、外資系企業の場合、待遇は良いが雇用継続に対する期待値が低いため紛争になりにくい傾向にあります。


契約書などに、あらかじめ「新型コロナウイルスなどの感染症が流行し、売上や受注に影響があり、雇用維持ができない場合は退職勧奨ができる」旨の条項を入れることで、雇用継続に対する期待値を下げ、労働紛争を予防することが可能です。

労務に関する相談はお早めに

新型コロナや不況のあおりを受け、人員整理によって経費を削減しようと考える中小企業が増えてきています。

しかし、経営上の理由による整理解雇は非常にリスクが高いです。のちのち紛争化して数千万円単位の未払い賃金を求められることもざらにあります。


人員整理を行う際は、正しい手順を踏んだり、従業員に対する十分な配慮をしたりすることが求められます。


弁護士にご相談いただければ、御社の人員整理が紛争化しないようにアドバイスが可能です。


弊事務所では、使用者側のご相談は初回無料でお受け付けしております。

どうぞ、お気軽にご連絡ください。