1 労働関係とは
(1)総論
労働関係とは、労務を提供して報酬を得る者と報酬を与える者との間に形成される一定の法的な権利義務関係をいいます。このような労働関係は、会社などの法人と個人の間で形成される場合、個人間で形成される場合があります。
このような、労働関係は法律による規律を受けることとなります。労働関係についての規律を行う法律、つまりルールを定めている法律を一般に「労働法」といいます。ただし、日本には「労働法」という名称の法典があるわけではなく、労働関係についてのルールを定める法律の総称を労働法と呼んでいます。
それでは、まずは法が定める代表的な基本原理を確認しておきましょう。労働関係も契約に基づくものであるところ、近代社会における市民法原理によると、個人の自由な意思に基づく契約であれば、契約内容は自由に設定でき、当事者は契約に拘束されると考えてもよさそうです。しかし、日給3000円で1日15時間労働(時給200円足らず)、休みは月2日というような契約であっても、当事者の自由な意思による合意によるということで、拘束力を認めてよいでしょうか?
もちろん、法律はこのような内容の契約には拘束力を認めないでしょう。国の最高法規・国家の基礎法である日本国憲法においては、27条2項で勤労条件法定主義が定められています。勤労条件法定主義は、労働契約について個人の自由な意思に委ねた場合には、経済的弱者である労働者が劣悪な労働条件を強いられる、という歴史的な経緯から定められたものです。この規定を受けて、制定されたのが労働基準法であり、労働条件の最低基準を規律することにより、劣悪な労働条件を排除し、労働者を保護することをその理念とします。
また、憲法は28条で労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保証しています。この規定を具体化するものとして、労働組合法が制定されました。労働組合法の理念は対等な労使交渉の実現です。
労働者と使用者の関係を労使関係といい、①個別的労使関係、②団体的労使関係に分類できます。①個別的労使関係は、労働者個人と会社・使用者が対立する場面をいい、この場面で問題となるのが労働委準法などです。②団体的労使関係とは、団結し集団となった労働者、例えば労働組合と会社・使用者が対立する場面をいい、この場面では労働組合法などが問題となります。
(2)労働関係の根拠
労働関係上の権利義務を発生させる根拠としては、まず、労働者と使用者の合意に基づく①労働契約があります。また、その他に根拠となるものとして②就業規則、③労働協約があります。これらによって発生する労働関係を労働法が規律するのです。