2.使用者の退職強要等が問題となった事例

〇バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件 東京地判平7.12.4

・事案の概要

 Y社の管理職Xが、Yの新経営方針の推進に積極的に協力しなかったことを理由にYにより①指揮監督権を有さない役職に降格され、その後②総務課受付への配転という嫌がらせ的な人事異動を受けて退職強要されたとしてYに不法行為による慰謝料の損害賠償請求をしたもの。


・判決のポイント

 昇格・降格、人事異動等については使用者に人事権行使の裁量があるため、裁量権行使の逸脱濫用がある場合に違法となります。①の降格については、Yの経営環境の厳しさから新経営方針に非協力的な者を降格することの業務上の高度の必要性があるとして、Yに裁量権の逸脱はないとしました。②総務課、それも受付等の単純労務への配置については、Xの人格権を侵害するもので、退職に追い込む意図からなしたものと認めて、裁量を逸脱した違法な行為として不法行為を構成するとしました。結果として、一部認容で100万円の慰謝料の支払いを命じています。

 

・判旨

 「使用者が有する採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権の行使は、雇用契約にその根拠を有し、労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事項であり、人事権の行使は、これが社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはならないものと解すべきである。

 

 しかし、右人事権の行使は、労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないことはいうまでもなく、経営者に委ねられた右裁量判断を逸脱するものであるかどうかについては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきである。」

 

 ①について、「Y在日支店においては、昭和56年以降、新経営方針の推進・徹底が急務とされ、Xらこれに積極的に協力しない管理職を降格する業務上・組織上の高度の必要性があったと認められること、役職手当は、4万2000円から3万7000円に減額されるが、人事管理業務を遂行しなくなることに伴うものであること、Xと同様に降格発令をされた多数の管理職らは、いずれも降格に異議を唱えておらず、Yのとった措置をやむ得ないものと受け止めていたと推認されること等の事実からすれば、Xのオペレーションズテクニシャンへの降格をもって、Yに委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものと認めることはできない。」としました。

 

 ②については、総務課の受付は単純労務であり、勤続33年、課長まで経験したXにふさわしい役とは到底いえないとして、「Xに対する右総務課(受付)配転は、Xの人格権を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、Yに許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成する」としました。

 

〇全日本空輸(退職強要)事件 大阪地判平11.10.18 

・事案の概要

 航空会社Yの客室乗務員として働いていたXは、労災事故により約3年3か月間休業し、職場に復帰した。しかし、労災事故の症状固定化以降、Yから度重なる退職の勧奨をうけるようになり、さらに不当に解雇されたとして、XがYに対して従業員としての地位確認、及び解雇以降将来にわたるの賃金の支払いを求め、解雇と退職強要が不法行為に当たるとして損害賠償を求めた事案。

・判決のポイント

 解雇については、労災からの復帰の場合には、直ちに従前の業務に従事する能力がないとしても、短期間での復帰が可能かどうか、可能な場合に使用者が復帰のための措置を講じたか等の事情を検討したうえで、YのXに対する解雇は解雇権の濫用(労働契約法16条)として無効であるとしました。

 

 Yの退職勧奨行為について、その頻度や各面談の時間の長さ、言動の内容から、社会通念上許容しうる範囲を超えており、違法な退職強要として不法行為になると判断しました。

 

 一審判決は控訴審、最高裁まで争われましたが上告棄却により、X側勝訴で確定しました。 

 

・判旨

 解雇について、Y社が解雇事由として、「労働能力の著しく低下したとき」及び「これらに準じる程度のやむを得ない理由があるとき」を定めているところ、労働者が職種・業務内容を限定して雇用されている場合には、労働者が業務を遂行できなくなり、現実に配置可能な部署が存在しないならば解雇事由になるのはやむを得ないとしました。

 

 しかし、「労働者が休業又は休職の直後においては、従前の業務に復帰させることができないとしても、労働者に基本的な労働能力に低下がなく、復帰不能な事情が休職中の機械設備の変化等によって具体的な業務を担当する知識に欠けるというような、休業又は休職にともなう一時的なもので、短期間に従前の業務に復帰可能な状態になり得る場合には、労働者が債務の本旨に従った履行の提供ができないということはできず、右就業規則が規定する解雇事由もかかる趣旨のものと解すべきである。

 

 むろん使用者は、復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できるものであるが、直ちに従前業務に復帰ができない場合でも、比較的短期間で復帰することが可能である場合には、休業又は休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配置等の実情から見て、短期間の復帰準備時間を提供したり、教育的措置をとるなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに、解雇することはできないというべきである。」として、本件Xには就業規則上の解雇事由は認められないとして、解雇は合理的な理由なく濫用として無効となるとしました。

 

 退職勧奨行為については、Xの上司が約4か月間にわたり、30数回もの面談、話し合いを行い、その内には8時間に及ぶものもあったこと、面談においてXに対して「能力がない」、「寄生虫」、「他の乗務員に迷惑」等と述べ、Xが応答しないのに対して大声をあげたり、机をたたいたりしたこと、Xが断ったのにXの寮まで赴き面談を行ったこと、Xの家族にもXを退職することの説得を頼んだことが認定されています。

 

 そして、これらの事実から「Yの対応をみるに、その頻度、各面談の時間の長さ、Xに対する言動は社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となる」としました。

 なお、解雇は無効とはしたものの、別途不法行為として違法となるまでのものではないとしました。

 

〇関連裁判例

・エールフランス事件(控訴審) 東京高判平8.3.27

 希望退職の候補者であったXがこれに応じなかったところ、Yの従業員である同僚から継続的に暴行を受け、「会社をやめろ」等と言われたこと、職務内容を変更され、無用な作業を命じられる等したことについて、XがY及びその従業員に慰謝料等の賠償を請求した事案です。

 

 裁判所は、暴行を行った従業員らについては不法行為が成立し、Xの上司である支店長については少なくとも仕事差別を知りえたとして仕事差別につき不法行為が成立するとしました。そして、当該暴力行為及び仕事差別が会社の意思に基づき行われたとはいえないとしたものの、これらの行為を従業員・支店長が「業務の執行につき」行ったとして、会社は民法715条に基づき不法行為に基づく損害賠償責任を負うとしました。

 

・国際信販事件 東京地判平14.7.9

 Y1社を解雇されたXが解雇の無効を主張し地位確認と賃金の支払い請求をし、かつ在職中に退職させるための嫌がらせを受けたとして、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案です。
 解雇についてはY1において人員削減の必要性が大きいといえず、解雇回避の努力を尽くしたといえず、さらにXの解雇に当たり十分な説明協議を行っていないとして、Xの解雇は客観的に合理的な理由を欠き解雇権の濫用として無効となるとしました。

 

 嫌がらせ行為については、会社代表者Y2及びY3がXに対する事実に反する噂の流布について防止策を講じなかったこと、Y1がXに過剰な業務を強いたこと、Y1が他の者には行った再就職のあっせんをXだけ行わず、他の者より先に解雇したことから、これら一連の行為はXをY1内で孤立化させ、退職させるための嫌がらせといわざるを得ないとしました。そして、これらが代表者Y2、Y3の指示ないし了解で行われたことから、Y2Y3及びY1の不法行為責任を認めました。