在宅勤務命令や配置転換命令はパワハラになる?

厚生労働省が定めるパワハラの定義は、


①優越的な関係を背景とした言動

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

③労働者の就業環境が害される


①から③までの3つの要素を全て満たすもの


となっています。

では、社員に在宅勤務を指示したり、配置転換を指示した場合はどうでしょう。

多くの人は、業務上必要な指示であると感じます。しかし、なかには不当な扱いをされたと感じる人もいるのです。

コロナウイルスの影響もあって、在宅勤務が増える昨今、事業者は指示内容がパワハラではないときちんと説明できるようにしておく必要があります。

在宅勤務命令はパワハラ?

在宅勤務命令に対して「パワハラだ」と感じる人は少なからずいます。

これは、その人の感覚がズレているわけではありません。

というのも、自宅での勤務が「人間関係からの切り離し」というパワハラの1類型と似ているからです。

急に在宅勤務を命じられると、「私を隔離しようとしているのでは?」と不安になるのは仕方がないことなのです。

そこで会社側がするべき対応は、「なぜ在宅勤務が必要なのか」という理由をきちんと説明することです。

例えばこんな事例があります。

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ある従業員が「急に在宅勤務を命じられた。これは隔離であり、パワハラである。」と主張してきました。

しかし、会社側は、これまでと同じ業務に従事させていて、仕事外しをしているわけではありません。

むしろ、在宅勤務を命じた理由は、当該従業員がほかの従業員とたびたびトラブルを起こしており、会社が何度注意しても改善していなかったからです。

当該従業員とトラブルになった周りの従業員が次々退職しており、会社としての損害が増えているという背景がありました。

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この場合、在宅勤務命令はパワハラにはあたりません。

従来通りの仕事を与えているため、在宅勤務を指示したことは業務上必要かつ相当な範囲内と言えます。また、労働者の権利が阻害されているわけでもありません。

しかし、期間を定めずに長期間にわたって在宅勤務を命じると、パワハラと判断される可能性が高まります。

コロナウイルス対策のための在宅勤務命令は?

コロナウイルス感染症対策のための在宅勤務命令がパワハラと判断されることはほとんどないでしょう。


「職場内で感染症を予防するための対処」という正当な理由があり、労働者の権利を害するものでもないからです。

ただし、極端に仕事内容を変更する(今までの仕事から外す、単純作業しかさせない)などの行為はパワハラと判断される可能性があります。

また、リモートワークが広がるにつれて「リモハラ(リモート・ハラスメント)」という言葉も生まれました。

これは、リモートワークにおけるパワハラのことを指します。

例えば、

〇常時テレビ会議を接続し、仕事をサボっていないか監視する

〇チャットツールで頻繁に進捗を確認する

〇テレビ会議に移る自室の風景や私服について話をする。テレビ会議画面に映った容姿について話をする。(「そんな部屋に住んでいるんだね」「最近太った?」など)

などがあります。

これらは、行き過ぎるとパワハラの6類型の一つ「個の侵害」となり得る可能性があります。

管理職としては、仕事の進み具合がとても気になるとは思います。しかし、束縛しすぎるとパワハラ行為だと判断される可能性があります。

さらに、リモートワークをしていると、チャットツールなど文章でのやり取りが中心となります。

文字でのやり取りをする分、こちら側の感情が伝わりづらくなります。いつも通りやり取りしているつもりでも、受け手はぶっきらぼうで高圧的だと感じるかもしれません。

言葉の選び方にも、今までとは違った配慮が必要です。

配置転換命令はパワハラ?

実際にあったパワハラの裁判例では、配置転換が不当な扱いだとして会社側に賠償責任が生じたケースもあります。

かといって、配置転換が何でもかんでもパワハラに該当するわけではありません。

在宅勤務命令と同じで、

〇なぜその従業員を異動させるのか

〇なぜその仕事内容なのか

〇なぜこのタイミングなのか

という、「なぜその命令が正当なのか」について、しっかりと説明できるようにしておく必要があります。

タイミングについては特に注意が必要です。

たとえば、とある従業員に退職勧奨をして断られたとします。そのあとにすぐ配置転換命令をしたとなれば、従業員は「自分から退職を言い出させるために配置転換を命令しているのではないか」と勘繰ります。

配置転換を不当な扱いと思われないように、きちんと理由や正当性を説明できるか事前に考えておくことが求められます。

俺の時代は○○だった!は通用しない

若いころから苦労を重ねて来られた中小企業の経営者様だと、「俺の時代は〇〇だった!もっとこうするべきだ!」と言いたくなるかもしれません。

確かに、経験豊富な方の意見は理にかなっていることが多く、適切なアドバイスである可能性が高いです。

ただし、「俺の時代は○○だった」だけでは部下には伝わりません。言い方によってはパワハラ問題に発展してしまいます。

ではどうすれば良いのかというと、言い方を変えることが重要です。

〇なぜそのようなやり方をするのか

〇なぜこの仕事が必要なのか

をいうだけでも、相手への伝わり方は変わります。

「俺の時代は○○だった!」という高圧的な印象から、論理的で穏やかな印象になります。


同じことを言っていても、言葉選びや説明方法を変えるだけで、雰囲気がガラリと変わるのです。

また、パワハラ加害者の多くが「自分は絶対に正しい」「相手が100%悪い」と思っています。

実際のパワハラ裁判例を見ていると、善悪がはっきりしている例はほとんどありません。

大体の例が、どちらにも何かしらの落ち度があります。(上司の指導がいきすぎていた、部下も単純なミスを繰り返していたなど)

頭ごなしに「○○のはずだ!」と判断するのではなく、物事を客観的にとらえる工夫が必要です。

ハラスメントのご相談は弁護士法人iまで

弊所では、
・ハラスメント診断
(就業規則及びハラスメント規定が、厚生労働省告示の指針に置いて求められる雇用管理上講ずべき措置に適合するか診断致します。)

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